松本:テンナイン社内でチェッカーとして働いた経験はいかがでしたか?
武居:毎日、とにかく面白かったです。未経験から翻訳業界に飛びこんだので、オフィスでみなさんの仕事ぶりを見ているだけでも勉強になることが多かったですね。お客様から依頼が来て納品に至るまでの流れを間近で観察でき、非常にいい経験になりました。フリーランスになった今も、いい意味で仕事のやり方に影響しています。コーディネーターやチェッカーのみなさんの仕事の流れを知っていて、チームとしていい翻訳を作り上げるという意識があるのとないのとでは、フリーランスとしての働き方に大きな差が出てくると思います。
松本:翻訳をやりたいのに、チェック作業を担当することに抵抗はありませんでしたか?
武居:いいえ、まったくありませんでした。チェック作業はそれ自体がプロの仕事です。翻訳者志望の未熟な者が担当すべきではないという意見をよく聞きますが、まさにそのとおりだと思いますし、つねに気を引き締めて取り組もうと心がけていました。いろいろな学びがありましたが、安易に修正してはいけないというのもそのひとつです。翻訳者さんは、全体の文脈を汲み取ったうえで訳語を選んでいます。チェッカーがぱっと見て、原文と合っていないからとすぐに訂正するのは危険です。翻訳者さんの仕事を台無しにしてしまわないように、細心の注意を払わなければなりません。それから、お上手な翻訳者さんの訳文を読めるのも貴重な経験でした。こんなふうに訳せるなんてすごい!という訳文に出会うと感動しますよね。そのうち憧れの翻訳者さんもできたりして、先輩方から本当に多くを学ばせてもらいました。盗める技は全部盗もうと、毎日必死で訳文とにらめっこしていました。
松本:テンナインとしては翻訳者になりたい人だけでなく、チェッカー志望の方々も応援していきたいのですが、武居さんからチェッカー志望の方にアドバイスなどはありますか?
武居:チェッカーには細かい気配りが大切です。例えば、クライアントA社から頻繁に依頼があったとして、毎回同じ翻訳者を調整できない場合がありますよね。でも、同じチェッカーがA社の用語の好みなどを理解していれば、そこで修正することができる。もちろん、翻訳者のみなさんも素晴らしい訳文を出してくださいますが、同じクライアントをつねに担当しているチェッカーだからこそ、品質をもう一段階上げることができます。誇りを持ってできる仕事ですよ。
松本:実は、僕が翻訳部のディレクターになってから新しく始めたことがあるんです。毎年、頻繁に案件をご依頼しているチェッカーさんたちをお招きし、それぞれのご自宅に食事をデリバリーしてオンライン交流会をやっています。異動してきてから、翻訳部がどれだけチェッカーさんのお世話になっているのかを痛感しました。翻訳の品質を担保するための最後の砦となってくれているチェッカーさんたちに感謝を伝えたいですし、少しでも還元できればと思っています。
武居:それいいですね! フリーランスとなった今、チェッカーさんは頼もしい味方のような存在です。新しいクライアントの案件を担当するときは特に、つい頼りたくなってしまいますね。英語の原稿を1枚渡されて、そこに書いてある内容はわかっても、どんな言葉づかいが好みか、決まった訳語があるのかまでは調べきれないことも多いですから。自分でもできるかぎり高い品質を目指しますが、チェッカーさんに最後の仕上げをしてもらえるというのは、翻訳者にとって心の支えです。
>次回はインハウス翻訳者→フリーランスとなるまでの経緯をお伺いします。
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