人口約250万人、韓国南東部を代表する都市・大邱(テグ)広域市。地下鉄1号線・2号線に加え、新たに開業予定の3号線に都市交通としては韓国初のモノレールが導入され、注目を集めています。このモノレールの車両製造をはじめ基幹システム一式を請け負っているのが日立コリア。村上真紀さんは、2008年の受注以降、担当営業として事業の進捗を間近で見守ってきた1人です。現在、大邱モノレールは開業を控え試験走行真っ只中。開業が待ち望まれるモノレールプロジェクトについて、大邱市内にあるオフィスで伺いました。

第78回~村上真紀さん(日立コリア)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

名前 村上真紀 勤務先 株式会社日立コリア 鉄道プロジェクト部/鉄道・産業営業部 年齢 満30歳(1984年生) 出身地 石川県 在韓歴 1年5カ月(2012年12月~) 経歴 大学在学中に延世大学韓国語学堂に留学(10カ月)。卒業後の2006年、株式会社日立製作所入社。2008年より鉄道システムの海外営業に従事し韓国市場を担当。

半世紀にわたり安定運行のモノレール。高い安全性がきめてに

第78回~村上真紀さん(日立コリア)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

車両基地に駐泊中の3号線モノレール 1962年に日立製作所ソウル駐在所を開設して以降、弊社は主に電力や鉄道など韓国の社会インフラ発展につながる事業を展開してきました。鉄道分野では1974年に開業したソウル地下鉄1号線の車両・変電システムをはじめ、近年では韓国鉄道公社(KORAIL)殿にソウルと近郊を結ぶ急行列車「ヌリロ」の車両を納入しました。

モノレールプロジェクトの受注にあたっては、韓国の鉄道市場で築いてきた信頼もさることながら、日本内外で50年以上にわたり運行してきた日立製モノレールの安全性を高く評価していただけました。 大邱モノレールでは軌道桁に跨った形で走る「跨座(こざ)型」という方式が採用されています。弊社はこの跨座型モノレールで東京や大阪をはじめとする日本国内9路線の他、中国・重慶、シンガポール・セントーサ島、アラブ首長国連邦・ドバイの海外3路線にも納入するなど豊富な実績がありました。

公共事業として決定に慎重を期す大きなプロジェクトだけに、大邱都市鉄道の関係者の方々も視察のため何度となく日本へ足を運んでくださいました。その際は、私たち営業担当者がご案内し、大阪モノレールや沖縄ゆいレールなど実際に運行中の日立製モノレールに試乗していただいたり、大邱市の土木や車両などの専門家にモノレールの運営事業者と意見を交わしてもらうなど、様々な観点で検討していただく機会を設けました。

都市景観を損なわない軌道桁と騒音の少なさがメリット

第78回~村上真紀さん(日立コリア)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

これまでは主要な都市交通といえば地下鉄でした。しかし地下鉄は膨大な建設費用に加え、車道を長期間閉鎖して工事を行なう必要があるなど道路交通に与える影響がネックとなっており、近年韓国では新規路線建設の際、比較的低コストで工期も短いライトレール(軽電鉄)を採用する傾向にあります。

ライトレールにはモノレール以外にもAGT(ゴムタイヤ車両がスラブ軌道(※)を走行)やリニアモーターカー(磁気浮上式鉄道)、トラム(路面電車)など様々な形態がありますが、大邱市が最後まで比較検討していたのが高架を用いたAGTとモノレールです。

※スラブ軌道…軌道に使われる道床の一種。路盤上にコンクリート板を設置しその上にレールを敷く構造

第78回~村上真紀さん(日立コリア)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

開放的なモノレールの軌道構造 AGTはスラブ軌道とそれを支える構造物が太く、高架下が全て日陰となるため閉鎖的な空間ができたり、周辺の地域がスラム化することで都市環境の悪化に繋がる懸念がありました。その点、跨座型モノレールは軌道桁が上り線・下り線各1本というシンプルな構造で、高架下は光がさしこみ緑地としても活用できます。

また、軌道桁を敷設する際にも一車線の半分ほどを確保するだけで良く、道路交通に与える影響も少なくて済みます。さらに走行音も極めて静かで高架下にいてもモノレールが通り過ぎていることに気づかないほどです。

第78回~村上真紀さん(日立コリア)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

こうした視界をさえぎらない土木構造物や走行時の静けさなど、周辺の都市景観・環境を保護できるという点はモノレールならではのメリットで、日本の運営事業者殿に高く評価いただいています。大邱市の場合も同様に、モノレールという選択を後押しする重要な要因となりました。

観光列車としても期待大。開業を機に街がきれいに?!

第78回~村上真紀さん(日立コリア)
(画像=『韓国旅行コネスト』より引用)

3号線は年々拡大する大邱市民の交通需要に応える形で建設されました。市内を東西に走る地下鉄1・2号線が網羅していない地域、つまり北西部から南東部にかけてをカバーしており、全長24km・30駅からなります。南東部の寿城(スソン)区は「大邱の江南(カンナム)」とも呼ばれ、高級ブランドマンションが立ち並ぶエリア。

そこから北上し、市庁や金融機関が集まる市内中心部を経ると、風景は一変し北西部の下町エリアに至ります。新たなランドマークとなる八達橋(パルタルギョ)で琴湖江(クモガン)を渡ると、のどかな八莒川(パルゴチョン)の河川敷を走り、さまざまな景色を楽しめます。

モノレールは遊園地のアトラクションとしてもおなじみですが、地下鉄と決定的に違うのが、乗車しながら景色を楽しむという要素が大きいことです。そのため、無人運転により先頭の展望席からも眺望を味わえる3号線は、通勤手段としてのみならず、大邱を訪れた観光客がモノレールに乗って市内見物を楽しめる、いわば観光列車としての需要も大きく期待されています。

そうした意図から、モノレールの車窓から見える景観の改善活動も進められようとしています。全区間で電線類が地中化された他、路線沿線のエリアでは、今後老朽化した屋根の整備や屋上庭園の製作なども行なわれる予定です。