大邱市民の声が反映された車両デザイン
モノレールの車両には、都市交通としては韓国初となるミストグラスを装備しています。住宅地を走る際に自動的にガラスが曇る仕組みで沿線住民のプライバシーに配慮して導入されました。
また車両内には2003年に大邱で発生した地下鉄火災事故を教訓にスプリンクラーを設置した他、非常時に沿線上で停止した場合などに高架軌道から安全に脱出できる装置としてスパイラルシューター(垂直式脱出袋)も搭載しています。
列車の印象を左右する車両先頭部の形状は、大邱市民へのインタビューやウェブ投票を通じて集まった意見を反映させました。インタビュー調査は私も実際に街角に出て行ないました。
丸い形や四角い形、細長い形など数あるデザインの中から最も支持を集め採用されたのが、丸みを帯びた流線型の形状でした。「大邱市民の笑顔(スマイル)」をコンセプトにしたデザインで、流線型のラインが笑った表情をイメージさせるものとなっています。
ミストグラス (左:稼動前、右:稼動後)
スプリンクラー
スパイラルシューター
若い世代が多い職場…仕事のスタンスも変化
韓国の鉄道市場を担当するようになってから2014年で7年目になります。モノレールプロジェクトの担当営業となり、日立コリアに赴任したのは2012年末。駐在が決まった当時は嬉しさ半分、不安半分という心境でした。
まず、入社以来漠然と希望していた海外駐在の機会をいただけたことは嬉しかったです。弊社はアジアや欧米など全世界に支店があり、駐在員はローカルスタッフと共に日々お客様のところへ赴き営業活動を行なっています。 これまでも出張では何度も韓国に来ていましたが、日常的にお客様を訪ね、直接声を聞くことができなかったため、韓国駐在は「営業」としての役割をしっかり果たせる貴重な機会になると思いました。
一方で、尊敬する上司や切磋琢磨してきたメンバーと離れ、今までのように教えを乞うたり相談しながら仕事を進めることができなくなってしまうのではないかという不安もありました。日立コリアのスタッフは全体的に若く、日本で部長・課長レベルに相当する40代、50代の社員が少ないです。
上司や先輩社員から学ぶ機会は日本にいた頃に比べ減ったものの、同じ目線で議論できるメンバーたちに恵まれ、今は「教えてもらう」という受身の姿勢よりも、「一緒に問題を解決する」という意識で仕事に取り組んでいます。
出社後はメールチェックからスタート。 打ち合わせで外出することも 営業という仕事柄、所謂「お金」にまつわることには全て関与しています。注文を取ったり入札に出るための見積書作成、輸出・入通関に関わる書類管理、契約に関わる諸業務などが主な仕事です。
また、モノレールのみならず鉄道分野の様々な製品を韓国国内のお客様にご提案するという新規案件の受注に向けた営業活動も積極的に行なっています。
計画ありきの日本、韓国の臨機応変さに戸惑うことも
プロジェクトの進行においては工程管理も重要な業務で、コストの調整が必要となる仕様の変更や工期の延長など工程に関わる事項には多岐にわたって対応しています。工程管理と関連し、韓国で仕事をしながら日本との違いを最も実感したのが計画性に関する部分です。
日本は何か仕事を行なう前に必ず精度の高い計画を立て、そのために多くの時間を割きます。計画の実現性が高くなるという長所がありますが、計画に狂いが生じた際には流動的な対応が苦手です。
一方韓国は、計画しながら実行していくイメージです。計画に錯誤が生じることは日常茶飯事ですが、途中で問題が起こった際の臨機応変さや迅速な対応には驚かされます。
日本では一般的に、プロジェクトの各工程は完了時までにやるべき仕事を日単位で細かく決めていくため、「明日工程を持ってきてほしい」と急に言われても難しい面があります。また、工程が確定しているにもかかわらず、「これやってくれないか」と飛び入りで注文が来ても、難しいリクエストの場合は、前例の調査に始まり対応方法の検討だけで数カ月を要することもあります。
赴任当初は、お客様からの難しいリクエストにうまく対応できず、怒られたり呆れられたりすることも少なくありませんでした。「果たせない約束はできない」という日本的な考え方と、「できなくてもいいから納得する工程が必要」という韓国的な考え方の狭間で、もどかしい思いをすることもあります。
しかし、お客様にとって意見を代弁してくれるのは営業担当者しかおらず、社内の意思を伝えつつもお客様の思いを汲み取り、お互いに現実的な解決策を見つけていくことが営業の役割だと思います。
どんなケースにも通用する万能なノウハウはなく、問題が起きるたびに知識豊富なエンジニアや過去に他国でプロジェクトを経験した社員など、頼りになるチームメンバーたちと相談しながら、その時々でベストな解決法を探るようにしています。
一人ひとりの努力が動かすビッグプロジェクト、開業式まで涙はおあずけ
以前、韓国のとあるドキュメンタリー番組で大邱モノレールプロジェクトが紹介されたことがあり、私は自宅でオンエアを見ていました。弊社の韓国の協力会社の現場班長さんが車体下で作業をしており、カメラマンが「大変でしょう?」と声をかけている場面でした。
扱うものも大きく、プロジェクトも大規模で関係者も多数にのぼる。そういう意味でカメラマンは問いかけたと思いますが、班長さんは「各自が自分の置かれた立場でやるべきことをやるだけです」と答えていて、その飾り気のない笑顔が印象的でした。
開業時はもちろんピカピカのモノレールにスポットライトが当たるでしょう。しかし、そこに至るまでには路線の土地買収から駅舎、軌道桁の建設まで、様々な分野で多くの人々が何年にもわたって関わってきました。
また車両についても100%日本の技術ではなく、韓国や第三国の優れた技術・製品が融合することで完成しています。 プロジェクト全体で見たとき、一人ひとりの取り組みは地味で些細なものかもしれませんが、それぞれの努力が積み上げられていくからこそ、大きな目標も達成できます。
世間では小さな仕事にやりがいを見出せず「会社の歯車になりたくない」と仕事を離れていく人もいるでしょうが、私はチームで力を合わせてひとつのことを成し遂げることにこそ、働く醍醐味があると思っています。
車両整備や組成が行なわれる車両基地
基地内にある管制室
各分野の専門スタッフが大勢勤務する
2014年5月現在、軌道桁は全線設置が完了し、走行試験と駅舎の整備が急ピッチで進められています。
プロジェクトがスタートした2008年当時は当然車両も軌道桁も何もない状態。やれ起工式だ、コサ(豚の頭を供え無事故祈願を行なう韓国の習わし)だ、という状況からようやく今日まで来ました。私自身、受注前の入札段階から一貫して携わってきたので感慨もひとしおです。
昨年の7月、車両が完成し初めて基地に納入された際にはお披露目会が開かれました。テープカットをしながら思わずうるっときたのですが、「ああ、まだ泣いてはいけないな」とぐっとこらえました。
無事全工程が終わり、開業式を迎えられたときにこそ、思い切り涙を流して喜べる自分でいられるように、これからも日々の仕事に全力で取り組んでいきたいです。 インタビューを終えて・・・ 流暢な韓国語を駆使しバリバリ仕事をこなす村上さんですが、文化も商習慣も異なる韓国で落ち込むこともあるといいます。そんなときに思い出すのが、韓国留学時代にお会いした韓国支店(当時)支店長直伝の「韓国でうまく仕事をするコツ」三か条だそう。
一つ、韓国語を学ぶこと。二つ、韓国という国を好きになること。三つ、常に謙虚な気持ちで仕事に向き合うこと。韓国をフィールドに働く皆さんの心にも深く響く言葉ではないでしょうか。開業まであと少し、大邱の新たなランドマークとして市内を悠々と走り抜ける3号線モノレールの姿を今から心待ちにしています。 株式会社日立コリア 韓国における日立グループの代表機能を担う主体として2009年、韓国日立鉄道システム、日立製作所韓国支店、日立イーストアジア韓国支店の3組織が統合し発足。日立の社会イノベーション事業に関連した電力、鉄道など社会インフラ関連製品の販売、国際調達、工事、保守などを行なっている。
(ソウル本社) 住所:ソウル市 中区(チュング) 世宗大路(セジョンデロ) 39 商工会議所会館7F 電話番号:02-3210-3590 (大邱支店) 住所:大邱市 中区(チュング) 達句伐大路(タルグボルデロ) 2095 三星生命徳山ビル22F 電話番号:053-252-2181 ホームページ:www.hitachi.co.kr
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