定年後は年金だけでまったり隠居生活……。そんな理想を叶えるのは案外難しいかもしれません。老後のお金について無計画だったために困ることになったTさんの事例を見てみましょう。

「年金でのんびり暮らす」は甘かった……。理想と違う老後生活

50代のころから漠然と「いずれはのんびりと年金暮らしを楽しもう」と考えていたTさん夫妻。平均以上の収入があり、それまで特に生活に困ったことはありませんでした。

Tさんは40年近く同じ会社に勤め続け、その間ずっと年金保険料を支払ってきたこともあり、明確な根拠がなくてもなんとなく老後は安泰だろうと考えていました。

でも、年齢を重ねてくると55歳で会社の役職定年を迎えて給料が大幅に下がり、60歳で定年したときに受け取れた退職金は期待したほどではなく、65歳から受け取れる年金も想定より少なく、どんどん現実と思い描いていた将来との差が開いていきます。

貯金を取り崩しながら日々生活しているものの、あるとき、今のペースでいくと80歳を迎えるまでにお金が尽きてしまうことに気が付きました。どんどん貯金が減っていく状況は、精神的にも負担がかかります。長生きするほどお金の不安が増していく状況に、夫婦は頭を抱えています。

老後の資金準備の現状

実は、来るか来ないかわからない「病気」には備えていても、それよりも高確率で訪れる「老後」には備えていないという人が多いのです。

生命保険文化センターが2019年に行った「生活保障に関する調査」によると、病気やケガで困らないよう保険や預貯金などで備えている方は85%いましたが、老後にお金で困らないよう準備しているのは約65%にとどまりました。

ちなみに、老後(65歳と仮定)を迎える確率は男性が89.6%、女性が94.5%です(厚生労働省「簡易生命表」2019年)。統計では、9割近い確率で自分の身に起こり、いずれ迎える老後についてお金の不安を抱えている方は8割を超えているのに、生活設計をしている(将来希望する暮らしやそのための経済的な準備について考えている)人は4割未満という結果になっています。

老後に困らないために今できること

老後に困らないようにするために、次の3つを心がけましょう。

将来の収入や支出を予測しておく

自分が将来もらえる年金や退職金の額、老後の暮らしに必要な費用についてできる限り具体的に知っておきましょう。老後の収入や支出を試算すると「足りない金額=備えるべき金額」が見えてきます。

年金や退職金に期待しすぎない

年金や退職金は数千万単位で老後の支えとなってくれるものですが、国や会社の方針次第で変わる可能性もあります。全面的に頼りにするのではなく自分でも備えておきましょう。

お金に困らないための準備を始める

足りない金額を補うためにはどうすればいいか考えます。たとえば、現役の間に貯金をがんばる、高齢になっても働けるスキルを身に付ける、iDeCoやNISAなどを使って投資でお金を増やす、生活費を見直して家計をコンパクトにするなどがあります。どれも一朝一夕ではできませんので、早めに準備し始めたいところです。

自分の老後に興味を持って備えよう

老後はどんな風に過ごしたいかと聞かれても、若い方ほど想定するのが難しいかもしれません。でも、たまには自分の老後に思いを巡らせ、収入や支出のシミュレーションをしてみましょう。それが、自分の理想を叶えることにも将来お金に困る確率を下げることにもつながりますよ。

 
文・馬場愛梨(ばばえりFP事務所代表)
自身が過去に「貧困女子」状態でつらい思いをしたことから、お金について猛勉強!銀行・保険・不動産などお金にまつわる業界での勤務を経て、独立。むずかしいと思われて避けられがち、でも大切なお金の話を、ゆるくほぐしてお伝えする仕事をしています。AFP資格保有。

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