「理想の体型を手に入れたい……」でも美味しいものは食べたいし、お酒も楽しみたいと願っている人は少なくないでしょう。そんな願いを叶えるべく、今回はなんと、たった30分走るだけで理想の体型が手に入る「高地トレーニング」を紹介します。

高地トレーニングの効果に関する理論が2019年のノーベル医学・生理学賞を受賞したため、今注目されているトレーニング方法のひとつです。高地トレーニングジム「ハイアルチ」(High Altitude Management Co. Ltd.)の取締役新田幸一氏に高地トレーニングの魅力を伺いました。

なぜ、高地トレーニングがいいの?

――御社が展開しているジム「ハイアルチ」について教えてください。

新田幸一さん(以下、新田):「ハイアルチ」は室内を標高約2,000~3,000メートルの高地と同じ程度の低酸素空間とすることで、特別なマスクなどをつけずに高地トレーニングができるジムです。心拍数や血中酸素濃度(SpO2)を計測しつつ、無理なく体を鍛えていきます。

――「無理なく」とはどのような意味ですか?

新田:部屋の中を約30分走るだけで、平地でのトレーニング約2時間分の効果が得られます。基本的に30分以上は走れません。また、本人のペースに合わせてトレーナーがつきます。

この高地トレーニングによって持久力が向上したと実感する体験者が多く、約8割の人がマラソンの自己ベストを更新しています。

――それは凄いですね! ところで高地トレーニングに注目したキッカケは何だったのでしょうか?

新田:箱根駅伝のフィジカルコーチをしていた頃、日本と海外のマラソン界の差を痛感し、高地トレーニングの重要性を感じました。

高地トレーニングの大きなメリットのひとつに、低酸素状態になると糖や脂肪をエネルギー源として熱を生み出すミトコンドリアの活性化効果や、血液中の赤血球の増加を促す造血因子であるエリスロポエチンを増加させ、疲れにくい体になる効果があります。

特にミトコンドリアは、一部の細胞を分解してリサイクルする「オートファジー」を促進します。オートファジーが上手に機能しないと老化が進みやすくなります。またエネルギーを作るミトコンドリアは、低酸素状態になると生命の危機を感じてエネルギーの餌となる脂肪をたくさん食べてくれるのです。

――では、デメリットはあるのでしょうか。

新田:高地トレーニングは苦しいので速く走れません。そのためゆっくりと走るので、地上での結果が把握しづらいのです。

その点をうまく調整したのが、シドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子さんです。彼女は、午前中は高地、午後は山から下りて走ったそうです。そういう情報はあまり浸透していないため、高地にばかり人気が集まります。

しかし、このデメリットの部分を解消しているのがハイアルチの高地トレーニングといえます。ハイアルチの高地トレーニング部屋は、気圧の変化がありません。そのため苦しくないんですね。ですから走ろうと思えば速く走れるのです。

――高地トレーニングの効果に関する理論が2019年のノーベル医学・生理学賞を受賞しましたが反響はどうでしょうか。

新田:おかげさまで、お問い合わせを頂くことが増えています。今回、人間の細胞が低酸素状態の酸素欠乏に適応する「低酸素応答」のメカニズムを解明した3人の学者にノーベル医学・生理学賞が贈られました。

人間は低酸素の状況に置かれると、体の中からエリスロポエチンというホルモンが増えて赤血球がつくられます。このエリスロポエチンを増やすために必要な、「低酸素誘導因子(HIF)」という情報を伝えるたんぱく質や、HIFを調節するたんぱく質が発見されたのです。これは、重い貧血を引き起こす慢性腎臓病の薬が開発され国内でも承認されるなど、医学にも貢献している理論です。実際、海外では高地トレーニングが医療分野と連携している事例があるのです。

アスリートだけではない、一般人が通える「高地トレーニング」

――高地トレーニングというと「アスリートが通う」イメージがあります。実際はいかがでしょうか。

新田:芸能関係者のほか、サッカー日本代表クラスのアスリートといった発信力のある方が利用されているためそのように映りがちですが、実際のお客様の割合は、全店平均で一般女性が約6割、一般男性が約3.5割、プロアスリートが約0.5割と、そう多くはないのですよ。

とはいえ注目はされているようで、サッカー協会の方が視察に訪れることもあります。

――サッカーの日本代表クラスの方と同じフロアで一緒に走れることもあるのですか?

新田:あります。子どももアスリートと同じ場所でできるため、刺激を受け、夢を育みやすい環境になっていると感じています。

ちなみにジムの平均滞在時間は約40分です。基本的に30分以上はできないシステムなので効率的です。しかも私たちはプロが通うスペックを持ちながら、一般の方にも使って頂ける施設を目指しています。そのため月会費は1回あたり3,000円以下におさえ、続けやすさを大切にしています(※店舗により月会費の価格は異なる)。

子どもとお年寄りも同じフロアで筋トレをして、その同じ場所でアスリートも走っている。そんなジムが理想ですね。

いよいよ高地トレーニングを体験!

高地トレーニングの情報を教えてもらったあとは、いよいよ実際に低酸素状態でのトレーニングを試させてもらうことに。

まずは更衣室で着替えを済ませ、テーブルで健康に関する書類にサインをします。この書面による健康チェックはトレーニング前に、毎回行なっているそうです。

ガラスの向こう側の芝生の部屋とその奥のマシーンのある部屋が、低酸素空間となっています。

低酸素状態は、どれくらい大変なこと?

まずガラスの手前で、心拍数や血中酸素濃度(SpO2)を計測します。指先に大きなクリップのような血中酸素濃度測定器を装着し、計測スタート。筆者はSpO2が95、心拍数が77でした。ちなみに地上でSpO2が90を切ると、救急車を呼ぶレベルなのだそうです。いざ体験スタート!

新田:それではその場でダッシュをしてみてください。30秒です!

にこやかに言い放つ新田氏。「まだ低酸素空間に入っていないのにここでダッシュ?」と疑問を感じつつも、とりあえず言われた通り、その場で猛烈ダッシュしました。妙な雄たけびをあげながら、ラスト10秒はもう息切れ状態で必死です。

新田:SpO2は98、心拍数は168です

――ぜぇはぁ。(それが良いのか、悪いのか。さっぱり分かりません)

新田: SpO2を落とすにはもっと心拍数をあげるような激しい運動をしないと、地上では90を切ることはできないと言われています。

――これ以上、激しくですか。それは無理です!

新田:ですよね。地上では難しいのです。では低酸素の空間に入ってみましょう。

ということで心拍数を落ち着かせて、いよいよ低酸素空間に突入です。