おそらく、トラックに乗っていたのは本当でしょう。過去にトラックと一緒に写っている写真もあった。でも、万博には行ってない。そう考えると、すべての辻褄が合うんですよ。
聖人を大学に入れるために貯めていたカネは、永吉が言っていた通りギャンブルで使い果たしたのでしょう。しかし、その事実がバレて息子に激昂され、強い自責の念にかられた永吉は、その自らの罪に耐えられなくなった。
そして、いつしか記憶を塗り替えてしまったのです。あのカネはギャンブルじゃなく、人助けに使ったのだ。オレは息子のために女房が貯金していたカネを使い込むような男じゃない。立派なトラックドライバーだった。そうだ、万博に食材を届けたことだってあるんだ。
それはすべて、永吉の妄想でした。
ばあばは永吉の妄想癖を知っていたんだろうね。だからずっと花ちゃんにも会わせなかったし、結さんや愛子が神戸への移住以降、糸島に帰郷した形跡がないのもこれで説明がつく。ばあばと愛子が結託して、家族を糸島の永吉に近づけないようにしていたのでしょう。
知らなかったのは永吉自身と、聖人です。本当に実の父がギャンブルで金を使い果たしたことで大学進学の夢を断たれたと知ったら、そのショックは大きいでしょう。殺してしまうかもしれない。だから、みんなでその事実を隠していたのです。
しかしその聖人がガンになり、いよいよばあばも真実を打ち明けるときがきたことを悟ります。永吉と聖人の2人だけで万博公園に送り出し、そこで永吉に真実を思い出させようとした。捏造した記憶の清算を試みた。
鬼ごっこの少年と記念写真の女性は、永吉の妄想の続きです。
自分は知らんやつに大金を貸してやるような親切な人間だから、少年の財布を見つけてやることだってあるに決まってる。
自分は万博に仕事で来ていたんだから、ウエイトレスと仲良くなることだってあるに決まってる。
そういう妄想が、永吉にあの2人の姿を見せていた。