働きすぎによる過労死や過労による自殺が社会問題となっている現代。企業は、「働き方改革」を推進することで労働環境の是正を図っていますが、その改革が十分に浸透しているとは言いがたいのが実情でしょう。自分や自分のまわりの人たちを過労死や過労自殺から守るためには、どんなことに注意するべきなのでしょうか?
体や心が発するSOSのサイン、疲れやストレスをため込んでしまわない生活習慣、激務や過労に関する悩みなど、長年にわたり過労死問題に積極的に取り組んできた、精神科医である、かゆかわクリニック院長・粥川裕平先生からのアドバイスをご紹介します。
自殺者は減少傾向。ただし20代~30代は……
──ブラック企業や激務による過労死、過労自殺が大きな社会問題となる中、2014年には過労死等防止対策推進法が制定・施行されました。それから5年、社会はどのように変化しているのでしょうか?
粥川裕平先生(以下、粥川):過労死や過労自殺を取り上げる前に、まず自殺者全体の現状を見てみると、日本を含む世界全体の自殺率は1990年から1/3以上低下しているとのデータがあり、全世界的に自殺者数は大きく減少してきています。
ここ 20 年ほどの日本の自殺者数の数を見てみても、2003 年の 3 万 4,427 人をピークに右肩下がりに減 少し、2016 年には 2 万 1,897 人となりました。
自殺者数全体の数が減少することは本当に喜ぶべきことです。しかし、さらに掘り下げて年齢別の自殺率の推移を見てみると、1999年に比べて、2011年までは20~30代の自殺率のほうが増加傾向にありました。
2011年より少しずつ減少してきてはいましたが、2016年から2017年にかけて再び20代の自殺率の増加が認められました。
──全体の数は減っているのに、若者の自殺者数が増えているのには何か原因があるのでしょうか?
粥川:ひと言で表すと、バブル崩壊後の「失われた27年」の困難が、若年層に凝縮されてきたと言えるでしょう。
大学生の就活失敗自殺、非正規雇用者の増加、ブラック企業の蔓延などさまざまな原因が考えられます。ちなみに20代の自殺原因の上から3つが、うつ病・総合失調症・仕事疲れとなっているんです(警視庁『2014年中における自殺の状況』)。
先行き不透明な将来への不安や閉塞感、さらには連日の残業や休日出勤といった過剰な時間外労働の蔓延による「心身の疲れ」もあるでしょう。