筆者もまた、上述したポストやニュース記事を先に読んで、今どうして三上博史が話題になるのかと思ったひとりだ。その上で第6話のラスト2カットを見て、そうかこれにみんな興奮したんだと膝を打った。ぼくらは今も昔も三上博史ファンなんだと改めて気づく。みたいな話題性をいきなり提供する2カットなのだ。

 鴻田と相棒を組むことになる阿川が本格的に登場する第7話が早く見たいなとワクワクしながら、次週の予告編を見てまた目が釘付けになる。

 今度は画面下手。ペットボトル片手にフレーム外を眼差す三上の横顔に完全ノックアウト。眉間の皺、口元から顎のラインにかけてパキパキ微動する色っぽさ……。あぁ、何て神々しい横顔なんだろうか(!)。

◆芸術表現の理想型みたいな存在感

 世界の名作文学を全4回で解説、読破する『100分de名著』(NHK Eテレ)でも三上は、この上ない厳格さと美しさで自らの横顔を印象付けていた。イタリアの記号学者ウンベルト・エーコによる大ベストセラー小説『薔薇の名前』放送回(2018年)。

 三上が、繊細な照明を施したスタジオで本を広げ、朗読する。ややローアングルのカメラが、その横顔を捉え、その声の表現を浮き上がらせる。エーコが込めた複雑なミステリー世界が、三上の横顔と声でより一層引き締まり、迷宮感を強める。

 芸術表現の理想型みたいな存在感の人である。彼の声の魅力は、2007年から放送され、ナビゲーターを担当している『小さな村の物語 イタリア』(BS日テレ)のナレーションにもいきいきと息づいている。彼が発する言葉ひとつ、そしてまたひとつ、どれも決して聞き逃してはいけないと思わせる明快な磁場がある。

◆令和の時代に再発見

『贖罪の奏鳴曲』DVD BOX
『贖罪の奏鳴曲』DVD BOX(ポニーキャニオン)
 その存在とその声が、かぐわしい色っぽさで結実した代表作をひとつだけ挙げるとするなら、『月の砂漠』(2003年)でもタッグを組んだ青山真治監督の『贖罪の奏鳴曲』(WOWOW、2015年)だと思う。ここには青山監督が、ワンカットごとに丹精込めた彫刻作品のように端正な三上博史が写っている。