厚生労働省が発表している「令和元年簡易生命表」によると、2019年の日本人の平均寿命は男性81.41年、女性87.45年となっており、女性の方が6年ほど長生きする予想となっています。夫に先立たれたとき、心配なのは妻の生活費ですが、実は共働きだった夫婦の年金額は夫の遺族年金が一部支給停止され、大幅に少なくなることがあるのはご存じでしょうか。

共働きだった夫婦、年金額は年310万円で余裕があるはずが

長年会社員として働いてきたTさん(68)は、1年前、妻が65歳になって年金を満額受給できるようになったのを機に仕事を退職します。Tさんの妻も会社勤めをしていた経験があり、どちらも老齢厚生年金を受給できるため、年金額は2人合わせて年額310万円ほどありました(表1)。

表1. Tさん夫妻の老齢年金の内訳
Tさん
老齢厚生年金 108万5,500円 45万4,300円
老齢基礎年金 78万1,700円 78万1,700円
年金合計 186万7,200円 123万6,000円

妻が66歳のときに夫に先立たれ、年金額が半分に!

ところが、老後生活が始まって間もない頃、Tさんは69歳の若さで他界してしまいます。Tさんの妻は新聞で「夫の死後、年金は3分の2程度に」と読んだことがあったので、遺族年金を合わせて200万円ぐらい受給できると思っていましたが、実際に支給された年金額は163万円、つまり2人のときの約半分に減ってしまいました(表2)。

表2. Tさん夫妻の年金額と夫の死後の妻の年金額の比較
夫婦2人のときの年金額 夫の死後、妻の年金額
Tさん老齢厚生年金 108万5,500円 遺族厚生年金 81万4,125円
Tさん老齢基礎年金 78万1,700円 遺族厚生年金支給停止額 -45万4,300円
経過的寡婦加算 3万9,030円
妻の老齢厚生年金 45万4,300円 妻の老齢厚生年金 45万4,300円
妻の老齢基礎年金 78万1,700円 妻の老齢基礎年金 78万1,700円
合計 310万3,200円 合計 163万4,855円

原因は、遺族厚生年金の支給停止です。2007年4月1日から、65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受ける権利がある人は、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となります。

1954年5月生まれのTさんの妻には、遺族厚生年金の加算給付の1つである経過的寡婦加算が3万9,030円支給されますが、それを含めた遺族厚生年金の額からTさんの妻の老齢厚生年金と同額の45万4,300円分が支給停止となってしまいました。

年金をアテにしすぎた故の誤算

家族の人数が2人から1人になっても、生活費まで半分になることはありません。普通に生活しても2人のときの8割、せいぜい7割に減るぐらいでしょう。

Tさん夫妻は、2人のときは月々約26万円の年金を受給できたので、贅沢をしなければそれほど貯金を取り崩すことはないだろうと考えていました。そのため、現在の貯金は700万円ほどしかありません。今となっては、月々の年金約14万円と貯金700万円で、Tさんの妻はこの先の人生をやりくりしなければなりません。

共働きだった夫婦は年金額も多く、片働きの夫婦と比べ、老後資金の備えに危機感が薄い方もいます。しかし、夫が先立ち妻1人になったときの年金額は片働きだった夫婦よりも少なくなる可能性があります。しっかり準備をしておかないと、夫が早く亡くなったとき、老後の不安が一気に増す危険性があるのです。

共働き夫婦は年金額の減少幅を正確に知っておこう

共働きの夫婦は片働きに比べて将来多くの年金がもらえることは確かですが、もし夫婦どちらかが早くに亡くなってしまうと、もらえる年金額が大幅に下がることがあります。Tさん夫妻は夫が若くして他界してしまいましたが、年の差がある夫婦であれば老後1人で生活する期間はさらに長くなるかもしれません。夫婦の年金額が1人になるとどれぐらい減少するのかを正確に知り、しっかりと老後資金を準備しておきましょう。

文・松岡紀史
肩書・ライツワードFP事務所代表/ファイナンシャルプランナー
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、 帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。

【こちらの記事も読まれています】
老後のための、幸せ貯金計画
「老後のお金」3つのポイント
豊かな老後のための3つのToDo
人生100年時代に必要な「生涯学習」って?
独身女性が安心できる貯金額はいくら?