(本記事は、鈴木秀子氏の著書『世界でたったひとりの自分を大切にする 聖心会シスターが贈る大きな愛のことば』(文響社)2018年10月19日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
【『世界でたったひとりの自分を大切にする』シリーズ】
(1)なぜ「私なんてダメ」と思うことが「傲慢」なのか
(2)人はなぜ「悪いことばかり考えてしまう」のか?
(3)「良いことしか言わない賢者」に「無残ないたずら」をしたらどうなる?
(4)聖心会のシスターが「人の話を聞かなかったときに起こった」一生残る苦い出来事とは
※以下、書籍より抜粋
他人との絆を育てる
「見えない本心」に耳をすませる
他人の話を聞くときは、言葉に耳を傾けながら、言葉の裏側にある真意を汲み取ることも重要です。
人は必ずしも本当の気持ちを口に出すとは限りません。
真意をストレートに話さず、要求だけをかたくなに言い続けることもあります。
オブラートに包んだような言い回しで、真意をわかってもらおうとすることもあります。
言葉に表れない相手の心中を推し量るのは、たいへんむずかしいことです。
しかし他人との絆を築くには、これをできるようになっておかなければなりません。
生涯忘れられない、私の苦い経験をお話ししましょう。
今から50年以上も前、学園紛争で日本中が荒れていた頃のことです。
ある女子学生が私の研究室にやって来て言いました。
「私はフランスに留学したいと思っています。できればどこかの修道院に滞在したいのです。宿舎として泊まれる修道院を探してもらえないでしょうか」
これを聞いた私は「なんとぜいたくな」と感じました。
当時大学は紛争に追われていました。
学生に危害が及ばないようにと、みな日々対応に苦慮していました。
そんな状況の中でフランスに留学したいと願い出る学生が、私の目にはとても身勝手に映ったのです。
「フランス人シスターに聞いてみますから、あと3、4日、週末の金曜日まで待って下さい」。私は彼女にそう言いました。
できるだけこの子を早く家に帰さなくてはと、多少の焦りもあったかもしれません。
ところが彼女は「木曜日に返事をもらえませんか」と聞いてきます。
なぜ金曜日まで待てないのだろう。
自分の都合を押し付けるなんてわがままだ。
そう思いながら、私は
「頼むにも調べるにも時間がかかる。だから木曜日は無理。金曜日まで待って下さい」と重ねて言い渡しました。
学生は「そうですか」と言って立ち上がりましたが、研究室のドアのところに行くと、ふたたび「どうしても木曜日はだめですか」と食い下がります。
「金曜日と言ったら金曜日です!」私は強い口調でピシャリと返しました。
彼女は地方からやって来た学生です。
貧しい人々が多かった当時、それはたいへん恵まれたことでした。
東京の大学を出してもらった挙げ句、さらにフランスに行きたい、しかも1日も待てないだなんて、わがままきわまりない……。
私は多少いらいらしながら、帰っていく彼女の後ろ姿を見送りました。
しかしこの後、愕然とさせられる出来事が起こります。
その学生は別の学生とともに自殺してしまったのです。
私は衝撃のあまり言葉を失いました。
あの学生は金曜に死のうと決めていた。
木曜に私から返事をもらえれば、決断を翻して自殺せずに済んだかもしれない。私の頑固な姿勢が彼女を死に至らしめてしまった……。
私は自分のとった行動を、深く、深く悔やみました。
こういうこともあって、私はアメリカの大学で、本格的に聞き方の勉強を始めました。
聞き方の訓練を受けることによって、言葉に対する感度を高め、他人の内面を察する力を身につけなければいけない。
もう二度と同じ過ちは繰り返すまいと、自分自身に強く誓ったのです。
以後、私は学生と話すとき、その言葉に注意深く耳を傾けるようになりました。
「レポートを出し忘れました」「遅れたものを出しにきました」などと言いながらきたら、本当にそれだけなのか、レポートを口実に何か訴えたいことがあるのではないか、見分けもつくようになりました。
真剣に聞かなければならないと判断したら、「時間もあるから、そこに座って。それでどうしたの?」と聞いてみます。
すると、たいていの学生は悩みや困り事を滔々(とうとう)と語り出します。
「悩んでいるの?」「話してごらん」などと聞かなくても、「どうしました?」と言うだけでどんどん話しだしたら、それは「悩みを聴いてほしい」という深刻なサインでもあるのです。
こういう場合はまず、相手の言葉を心の中でオウム返しのように繰り返します。
いい悪いも言いません。褒めたりアドバイスしたりもしません。
ただ相手と一体になって、自分の聴く姿勢を整えます。
聴く準備が整ってきたら、相手の気持ちになって「ああ、そうなんですね」と言いながら相手の言葉を繰り返してみます。
「今日は雨ですね。ここに来るのがおっくうでした」 「ああ、おっくうだったんですね」
聴いて、受けとめて、繰り返す。
たったそれだけで、相手はエネルギーを得て、みずからの力で問題解決できるようになっていきます。
全身全霊で聴く。
それはかけがえのない命をつなぐこともあるのです。
【大きな愛のことば】
「自分には何もできない」そう思う人は、全身全霊で相手の話を聴こう。
聴くことで人に寄り添える。
鈴木秀子(すずき・ひでこ)
聖心会シスター。東京大学大学院人文科学研究所博士課程修了。文学博士。スタンフォード大学で教鞭をとる。聖心女子大学教授(日本近代文学)を経て、国際コミュニオン学会名誉会長。聖心女子大学キリスト教文科研究所研究員・聖心会会員。著書に44万部突破の『9つの性格 エニアグラムで見つかる「本当の自分」と最良の人間関係』(PHP研究所)のほか、『死にゆく者からの言葉』、『愛と愛しのコミュニオン』、『心の対話者』(文藝春秋)、『死は人生で最も大切なことを教えてくれる』(SBクリエイティブ)など。
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