人間を描く上で、人生初の妊娠・出産という超大型イベントにおける心情が描けなかったことも、このドラマの大きな失敗になっていると感じます。

そのほか、今回の細かい失敗

 藤原紀香がバスガイドを辞めて管理栄養士になった理由を結さんに聞かせる場面。もう固形物を食べられなくなった重病のママが「ラーメンを食べたい」と言い出し、ラーメン屋にスープのレシピをもらって家で作ったらすごく喜んだ。そのラーメンのおいしさがママに活力をもたらし、寿命が伸びた。おいしいラーメンスープは人を幸せにする。

 だから私、ラーメン屋になったの!

 だったらわかるんですけど、なんでそれでバスガイドから管理栄養士につながるのか。ママの寿命を伸ばしたのは栄養じゃなくて、あんたが作ったラーメンスープの味だったんでしょう。マジでラーメンの才能あると思うよ。今からでもラーメン屋やったらいいのに。

 それと、バスガイドは左手を上げて「左手に見えますのは~」とは言いません。乗客と対面して、左手を上げながら「(乗客の)右手に見えますのは~」とやるのがバスガイドの仕事です。

 育休から戻ることになって社食を訪れた場面。代理の栄養士が入っていることを結が知らなかったのも変です。この日まで、結は社食メンバーと一切の関りを断っていたことになってしまう。

 自分が戻ったら代理の子がどうなるかも、あんたじゃなく会社が考えることです。ここで育休から戻ることを結がためらう描写がありましたが、これは放送免許を持つ公器として絶対にやっちゃいけない描写でしたね。育休を堂々と取る、明けたら堂々と戻れることを保証するのが育休制度の意義であって、「気を使って復帰をためらうのが美徳」とするのは時代に逆行してます。

 このバスガイドの件と代理栄養士の件は、2つとも『おむすび』というドラマの社会的常識の欠如を象徴しています。普通の大人がわかってることを、わかってない。こうしたリアリティのなさもまた、このドラマが失敗していると感じさせる部分です。