その一方で書道部のイケメン王子に美顔を寄せられれば「うちの青春、始まった!?」とハシャいでみたり、他校のイケメン野球部に弁当を渡せば感想メールを待ってウキウキでセンター問い合わせを繰り返したり、普通に恋愛を楽しむ少女としても描かれている。

 心に傷を負った女の子が恋愛したって別にいいと思うけど、これだと「心に傷は負っているけれど、イケメンと仲良くなれれば平気な子」になってしまうんです。ドラマの筋とは関係なく「恋する乙女・橋本環奈、キャピ♪」を演出してしまったために、アンバランスが発生している。

 この時点で結さんの心の傷が見えにくくなっていたんですが、さらに実際に描かれた震災の回想で、結さんはずっと平気な顔をしている。おむすびが冷たければ「チンして」と言うし、マキちゃんが死んだことを知ったときもどんな心境だったかは描かれていないし、何に傷ついたのかがまるでわからない。

 後に「チンして」発言を後悔しているというくだりもありましたが、「チンして」発言と「全部消えちゃう」的な思想はつながりようがない。アユのギャル化による家庭不和だって、結さんはアユがマキちゃんの遺志を継いでギャルになったことを知らなかったわけだから、結さん視点で見れば震災とは関係がない。

 つまり、阪神・淡路大震災は結さんという人間から何も奪うことができなかったのです。言い換えれば、ドラマは「震災で傷ついた結さん」を演出したかったのに、当時6歳という設定にしてしまったために、結さんを傷つけることができなかった。傷つけることができなかったのに、ずっと劇中で「傷ついている」と言わせ続けてきた。そうして迎えたのが、1月17日放送の第75回だったわけです。

 深い傷を負ったその日を、主人公である結さんの新たなスタートの日とする。

 それをやりたかったはずだけど、できるわけないんです。深い傷を負ってないんだもん。「管理栄養士になる」という決意は確かに再スタートではあるけれど、震災には関係がない。開始から2カ月にわたって描かれた糸島時代のすべてが、ゴミ箱に捨てられた瞬間でした。

その決意のきっかけにも失敗している