2021年4月に須藤は殺人と覚醒剤取締法違反で逮捕、起訴された。それから3年以上が経ち、今年の12月12日、和歌山地裁101号法廷に裁判長の凛とした声が響いたという。
「被告人は無罪」
証言台の前に座る黒いパンツ姿の須藤早貴被告(28)は、背中を丸めてうつむき、涙を流したという。
「公判の争点は二つ。野崎氏の死は殺人事件だったのか。であれば、犯人は須藤被告なのか。直接証拠がない中、検察側は、須藤被告による遺産目当ての殺人事件として『事件性』と『犯人性』を立証すべく、総勢二十八名に及ぶ認人尋問を実施し、論告では無期懲役を求刑しました。
対して須藤被告は、初公判で『殺していないし、覚醒剤も飲ませていない』と否認し、無罪を主張。弁護側は『薄い灰色を何度重ねても黒にはならない』と強調し、推定無罪の原則を前面に出して争いました」(司法担当記者)
結果として裁判所は、須藤に疑わしい点があることは認めつつも、「被告人が野崎を殺害したと推認するには足りない」として、無罪をいい渡したのである。
野崎は須藤と対面した初めての日、「会いに来てくれてありがとう」と帯封付きの現金百万円を手渡したそうである。
それ以後、野崎から熱烈な求愛を受けた須藤は、月百万円のほかに、「田辺市には住まない」「セックスはしない」などの条件を加え、結婚に同意した。
入籍日の新婚初夜、野崎から性的な行為を求められた須藤は、「しない約束だよね」と冷たくいい放ち、ゴム手袋をつけて野崎の陰部を触る行為までは許容したが、紀州のドンファンの異名とは裏腹に、既に性的機能が衰えていて勃起しなかったという。
以後も、田辺市の自宅を訪れた際に同様の要求はあったが、結果は変わらなかった。
野崎の20年来の愛人であるX子を引き合いに出して、「俺を勃たせられるのはX子だけ」といい、須藤が「じゃあX子に頼みな」と突き放すこともあったという。
その頃、須藤は東京に住んでいたが、離婚届を用意してまで同居を懇願する野崎に根負けして、2018年3月末から野崎の自宅で暮らし始めた。