――BTSやBLACKPINKなどK-POPはもちろんのこと、2020年に映画『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞の作品賞を受賞、Netflixでは『梨泰院クラス』や『イカゲーム』を筆頭に多くのK-ドラマが人気を博しましたが、今回の韓江氏のノーベル文学賞受賞で韓国文学(K-文学)ブームは今後どうなっていくと思いますか?
土佐 Netflixが代表する新たなメディア・プラットフォームは、大資本を動員してグローバルな規模でそうしたメディアミックスを拡大していく方向にあります。在日コリアン一家の移民史を韓国系アメリカ人作家のミン・ジン・リーが描いた小説『パチンコ』がアメリカでベストセラーを記録し、その後Apple TV+でシリーズドラマ化されているのもその一例です。
そういったグローバルなメディア・プラットフォームにおいてドラマシリーズに映画製作を超える資本が投入されているのを見ると、ドラマと映画という区分ももう無効になっています。その中で韓国の文学や映画もまた、成長を続けることでしょう。皮肉ではありますが、矛盾や葛藤に満ちた韓国の現代史は、普遍的なドラマを作り出す格好の素材を提供してくれます。
――最後に土佐さんがこれから韓国文学を読みたいと考えている者にオススメする作品を教えてください。
土佐 日本には韓国文学の翻訳本がふんだんに存在するため、まず紹介文をのぞいてみて、気に入ったものから読み始めたらいいでしょう。私個人としては、これを機に在日コリアンの文学にも目を向けてもらいたいと願っています。金石範の小説『火山島』は、韓国で4・3事件がタブーだった時代に、在日の作家だからこそ書き続けることができた大作です。それ以外にも、李恢成、梁石日、柳美里など優れた作家の作品が多数存在します。彼らは日本文学の伝統を豊かなものにしただけでなく、日韓の架け橋となり、東アジアの民主化に独特の貢献をしてきたといえます。今回の韓江のノーベル文学賞受賞は、そうした見えない連帯のネットワークが勝ち取った部分もあるのではないでしょうか。