――日本の関東圏と関西圏の違いどころではなさそうですね。
土佐 済州島に対する差別は、さらに複雑なものだと言えるかもしれません。日本の沖縄の位置づけに似たところがあり、歴史的に周縁化され差別されてきた一方で、近年は観光化が進みリゾート地としての楽園や癒やしというイメージが台頭しています。そのために本当に悲惨な歴史が見えにくいものになっていますが、どちらも単一民族国家という神話を押しつけられることで固有の文化を失いつつあります。韓国は日本にも増して同質的な単一民族国家だと信じられているので、少数民族の存在とか同化できない差異というものが否定されてきました。「同じ民族」という信念が強すぎるので、差異は同化されるか、さもなければ差別され、対立の火種になるしかなかったのです。済州島の言葉は、標準語の話者と意思疎通が不可能なほど距離があるので、ユネスコの規準に従えば外国語ということになります。しかし、その差異はあくまで訛りのきつい方言という位置づけでしたから、標準語に矯正されるべきという扱いでした。結果、その話者はほとんどいなくなり、ユネスコでは「消滅の危機にある言語」に指定されています。韓国の言語学者の一部には、それを「済州語」として認定し、保護すべきと主張する声もありますが、遅きに失したといえるかもしれません。
――4・3事件は1948年4月3日、米軍占領下にある済州島で南朝鮮(韓国)の単独選挙反対を掲げた青年らの蜂起に伴い、3万人近い島民が南朝鮮国防警備隊、韓国軍、韓国警察など、朝鮮半島の李承晩(イ・スンマン)支持派らによって虐殺された事件です。
土佐 これは虐殺の規模の面でも残虐さの面でも、光州事件をはるかに凌駕しています。済州島民は、そのとき「アカ」のレッテルを貼られただけでなく、「異質の他者」として伝統的に差別されてきたことから、なおさら虐殺がエスカレートしていった面があります。この出来事を直視し、亡くなった犠牲者の鎮魂を果たすのは、もちろん簡単なことではありません。ひるがえって、いまだに関東大震災時の朝鮮人虐殺はなかったと言い張る人が日本の一部にもいるわけですから、その何十倍もの悲劇を直視することがいかに困難か、想像するのは難しくないと思います。