2019年にチリで大規模なデモ行進がありましたが、レオンたちもこのデモに参加したそうです。デモの結果、左派の現政権が誕生し、先住民の権利を認め、ジェンダー平等などを盛り込んだ進歩的な新憲法案が発表されました。『骨』が製作されたのはこの時期で、社会意識の強いレオン&コシーニャは同時代のチリの政局や憲法をめぐる世相を、アニメーションならではのフィクション性によって表現しているようです。しかし、新憲法案は国民の支持が得られず、今のチリは政治的に迷走している状況です。チリ建国時代のナショナリズムやピノチェト政権時代を懐かしむ人たちはいまだかなりの数いますが、そうした現在の状況を揶揄するような、ひねりの効いた作品だとも言えるでしょうね」

 ラテンアメリカの文化について詳しい新谷氏は、レオン&コシーニャによる『オオカミの家』と『骨』について、こうも語った。

新谷「チリで1980年代までピノチェト軍事政権が続いたように、ラテンアメリカではこの50年の間に多くの市民が国家的犯罪の中で亡くなったり、行方不明になったままになっています。日常生活の中だけでは消化しきれない多くの死者の存在があり、そうした過去や死者たちにどう向き合うのかがラテンアメリカ各国の文化には共通しています。チリの首都サンティアゴにある、ピノチェト政権時代の人権被害に関する資料をアーカイブした『記憶と人権の博物館』も、そのひとつです。レオン&コシーニャはそうした現実の問題に積極的に関わり、アニメーション表現へと昇華しているように感じます」

 南米チリの歴史を背景にしたアニメーションがもたらす未体験の恐怖を、ぜひ2本続けて堪能してほしい。

『オオカミの家』
監督/クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ
©Diluvio & Globo Rojo Films, 2018

同時上映『骨』
製作総指揮/アリ・アスター 監督/クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ
©Pista B & Diluvio, 2023

配給/ザジフィルムズ
8月19日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
zaziefilms.com/lacasalobo

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