南米チリに実在した「コロニア・ディグニダ」は、アドルフ・ヒトラーを崇拝したドイツ人パウル・シェーファーが設立したカルト系コミュニティとして知られている。入植家族や地元の子どもたちをシェーファーは巧みにマインドコントロールし、1960年代から40年以上にわたり、彼らの労働力を搾取し、児童への性的虐待を重ねた。

 この「コロニア・ディグニダ」を題材にしたストップモーションアニメが、チリのアーティストデュオ、クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ監督による『オオカミの家』(原題『La Casa Lobo』)だ。コロニアから逃げ出した少女・マリアが、隠れ家で2匹の子豚を育てながらサバイバルする様子を描いた74分間となっている。

 一見するとかわいらしいアートアニメーションなのだが、パウル・シェーファーをモデルにしたオオカミの呼び声に、マリアは深く怯えている。コロニアでの虐待がフラッシュバックするのか、マインドコントロールによって自我を失っているのか、マリアが見ている景観だけでなく、マリア自身の形状も一定せず、絶えず変化していく。観ている我々まで、不安な気持ちになってしまう。

 世界各国で大ヒットしたホラー映画『ヘレディタリー/継承』(18)や『ミッドサマー』(19)のアリ・アスター監督は、悪夢的世界を描いた『オオカミの家』を絶賛し、レオン&コシーニャの新作アニメ『骨』の製作総指揮を務めた。『骨』はわずか14分の短編ながら、こちらも強烈だ。ひとりの少女が、亡くなったチリの政治家たちを呪術によって甦らせようとするもの。同時上映される『オオカミの家』と『骨』は、現実社会をモチーフにした底知れぬ不気味さを体感させてくれる。