チリでは近年、コロニア・ディグニダに関する映画、ドキュメンタリー、ルポルタージュなどが次々と発表されています。チリの監督マティアス・ロハス・バレンシアが撮った『コロニアの子供たち』(22)も、その一本です。コロニア・ディグニダは『ビジャ・バビエラ』と名前を変えて今も存続しており、そこで暮らす人たちを追ったドキュメンタリー『Songs of Repression』(20)もあります。かつてはチリ国内にあった別世界、国家内国家としてタブー扱いされてきたコロニアですが、現代のチリの人たちにとっては過去の出来事ではなく、国家権力と結び付いた根が深い問題として認識されています」
チリの国土は南北に4300kmと細長く続き、南部はドイツと気候が似ている。そのため、ドイツからの移植者が多いそうだ。
新谷「パウル・シェーファーはかつてヒトラーユーゲントだったとか、いろんな説が流れていますが、戦後の西ドイツでカルト教団を設立したものの児童虐待が発覚し、チリへ逃げてきたというのは本当です。チリ南部に行くと、今でもドイツふうの建物が多く見られ、ドイツ文化が根付いていることが感じられます。ナチスドイツ時代に暗躍した“殺人医師”ヨーゼフ・メンゲレも一時期、コロニアに匿われていたと言われているようですね。コロニアには反ピノチェト派が強制的に送り込まれ、ナチス式の拷問が行なわれていました。元ナチス幹部のアドルフ・アイヒマンは隣国のアルゼンチンに潜伏していたことも有名です。
チリの有名な作家ロベルト・ボラーニョの代表作に『アメリカ大陸のナチ文学』があり、架空の右翼的作家たちの生涯を追った虚構の評論集という形になっています。この作品にはコロニアをモデルにした箇所もあり、レオン&コシーニャはボラーニョからの影響も受けていると語っています。ドイツと南米には意外な接点があるんです」