「楽器はできないが、オケに入れろ」信用度ゼロである。

「この音楽になりたいと思う」あれ、ちょっと面白い子かも?

 で、どの曲が好きかと聞くと、ヨハン・シュトラウス2世だという。どんな風にテンションが上がるかと聞くと、「タン、タタンタタン」とか、「タラ~ララ~タララタラ~」とかフレーズを5個くらい歌ってみせる。

 やっぱダメだな、思わせる。こういうの言葉にできないやつはダメだよ。再び信用度ゼロ。

 しかし、なぜかマエストロは加入を認める。楽器を弾けなくても、演奏者の気持ちがわかるように練習しろという宿題を出す。この時点では、なぜマエストロが彼女をオケに招き入れるのか、誰もわからない。女子高生が去る。種明かしがされる。

 普通、主旋律だけ聞くものだが、彼女は副旋律のフレーズを歌っていた。同時に演奏されるそれぞれの楽器の音をちゃんと聞き分けている。暗に「だから指揮者に向いてる」と言う。

 そういうもんなんだろうな、という説得力が生まれている。マエストロが言うならそうなんだろうし、指揮者の適性ってそういうところなのか、という発見まである。

 無鉄砲な女子高生は無鉄砲なまま、見る側の信用を得ることになる。まるで『七人の侍』の菊千代(三船敏郎)みたいだ。そういえば静かに実力だけを見せつけたチェロ兄は、久蔵(宮口精二)みたいだった。