そのチェロの兄ちゃんのところにピアニカを持って訪れるマエストロ。世界的コンダクターとはいえ演奏技術はプロのチェロ奏者のほうが上ですから、教えを請いながらバッハをセッションしていく。このシーンもすごかったです。セリフを極力排除し、演奏と表情だけで2人の心が解け合っていくのがわかる。チェロ兄も、他人と演奏することの喜びを感じ始める。ひとしきり演奏が終わって、マエストロが言うわけです。他人と演奏する意味は何かという、問いに対して。

「魔法のような時間が生まれます、別の世界に行ける。生きてるなぁ、って感じる時間です」

 あー、痺れる。こういうのでいいんです。

 それともう1人、晴見フィルにメンバーが加わることになりました。前回のコンサートに通りがかり、「学生無料」という理由だけで観賞していった女子高生。その演奏に、しこたま心を打たれたようで、それからというものずっとクラシックを口ずさんでる。

 で、何も知らないままオケの練習にやってきて「楽器はできないが、オケに入りたい」「指揮がしたいから楽器はできなくてもいい」「誰でもできるでしょ、腕振ってるだけだし」と、キャラクターを横暴な方面に振っておいて「指揮がしたいっていうか、聞いてると、この音楽になりたいと思う」とパンチラインを効かせてくる。

 こうした無鉄砲なキャラクターを登場させる場合、見る側がどれだけその人を信用できるかが問題になってくる。オケの味方という立場からドラマを見ていれば、女子高生を「この私たちの物語に加入させたいかどうか」ということになる。