◆短い期間を切り取った青春物語

※以下、本編の内容を含んでいます。

“映画化”として、物語を再構築してきた本作。『カラオケ行こ!』は、聡実の、あるいは狂児のとても短い期間を切り取った美しい青春映画だった。

狂児の「綺麗なもんしかあかんかったら、この町ごと全滅や」というセリフが、この映画のすべてを表しているように思う。何回目かのカラオケレッスンで、聡実は狂児の音域に合って無理せず歌える曲を探して渡す。しかし、狂児が最終的に選ぶのは、いつも聡実に酷評されていたX JAPANの「紅」だったのだ。歌が上手い/下手以外にも“らしさ”や“愛”といった異なる表現があるように、人生もまた、綺麗でなくともそれぞれのカタチがあると気づかされる作品なのである。

俳優陣の原作に対する尊敬と理解を感じる演技、原作の世界観を汲んだ完璧な脚本等が、『カラオケ行こ!』を一段と味わい深いものにする。映画を観た後の拝読、そしては拝読後の鑑賞は、より一層豊かなものになるはずだ。

<文/西本沙織>

【西本沙織】

ライター。マンガやドラマを中心に、エンタメ分野のレビューやコラムの執筆を行う。

Twitter:@nishisaowriter