◆原作を補うオリジナル要素による”肉付け”
多くの原作ファンが映像化に求めるのは、原作に忠実であることだろう。だが、本作をファンに勧めたい理由は、原作には描かれていないオリジナル要素にこそある。
映像化にあたり、新たなキャラクターや設定が追加され、一部オリジナルストーリーが繰り広げられている。たとえば「映画を見る部」や合唱部の描写が当てはまるが、それらは聡実の思春期ならではの悩みや葛藤など、パーソナルな部分を深堀する役割を持っている。そのため映画のなかでは、聡実というひとりの人間の解像度が格段に上がっているのだ。
つまり、オリジナル要素が加わったことにより奥行きが生まれ、原作のストーリーや人物への理解度がさらに高まるということ。それらは付け足しではなく、“肉付け”や“補完”と言いたくなるほどの自然さで物語に馴染んでいる。
本作の脚本を担当したのは野木亜紀子。『逃げるは恥だが役に立つ』や『重版出来!』(ともにTBS系)、映画『アイアムアヒーロー』など、原作が存在する作品を多く手掛けている。彼女の脚本の魅力は、描写の巧みさや作品に対する洞察力の高さにあるだろう。それゆえ、たとえ原作にないシーンが挿入されていても世界観を損なわず、むしろよりクリアになっているとさえ感じるのである。
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