◆曖昧なままの関係性が愛おしい
狂児と聡実の関係性にフォーカスした原作に対し、本作は合唱部や家庭の描写を織り交ぜながら“青春群像劇”という形で物語が展開される。そしてその構成によって、より二人の異質な関係性が際立つのがいい。彼らの繋がりを“エモい”と感じるのは、確かに親密に結ばれているのに、その関係性がはっきりと示されていないところにある。少しの余白があるからこそ、観た者が言葉に表せない尊さを感じる。
そんな知り合いでも友達でも親子でも、はたまた恋人でもない二人の特別な絆を、本作でもしっかりと感じ取ることができる。
少し毒舌家であるものの、内では日に日に出せなくなっていくソプラノの声に悩む聡実。少年期の終わりの繊細な心の機微を丁寧に演じきった齋藤は、撮影当時“岡聡実”と近しい年齢。あの瞬間にしか生み出せなかったであろうみずみずしい演技や真っ直ぐな歌声には、心を打たれずにはいられない。狂児の飄々とした余裕感を出しながらも、聡実(齋藤)を見守るかのように半歩引いて魅せた綾野の演技と距離感もたまらなく絶妙で、彼らはまさに聡実と狂児そのものだった。
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