◆「ママおば」の問題点とは

あー、やっちゃったわぁ……! と晴子さんが後悔するも、時すでに遅し。地元ではO先生を中心にのぶみ氏支持の輪ができていて、一部に熱狂的な信者がいることを失念していた。

晴子さんが「のぶみ絵本の読み聞かせ」を不安に思うのには、理由がある。前出の『ママがおばけになっちゃった!』を、子どもらの目に触れさせたくないのだ。

俗称「ママおば」は、“ある日突然ママが事故に遭い、死んでしまった!”という衝撃的な物語。発売は2015年7月。初版は4000部とごく一般的な数字であったが、翌年にはシリーズ累計53万部という驚きの大ヒットを飛ばしている。YouTubeなどの読み聞かせ動画や、キッズスペースの絵本コーナでもよく見かける作品だ。

しかし売れた・話題になった本が、いい本だとはかぎらない。特に「ママおば」には、疑問視する声が多数あがっている。

絵本作家のぶみ202401
2015年にwebサイト『QREATORS』に氏のインタビュー記事が掲載され、当時それを読んだ筆者も、あらためて子どもに読ませたい本ではないと認識した。記事で親の大切さをわからせるためという意図が語られ、「ビンタ級の威力があると思う」とコメントしていたからだ(『Amazonランキング1位 「ママが死んじゃう絵本」なのにママたちから大人気のわけ』より。現在はページ削除)。

要は「ほらほら、親が死んだら困るだろ~?」と恐怖で子どもを従わせるってことでは。そりゃ、日々の子育ての中で夜遅くまで寝ない子どもに手を焼いて「もうオバケの時間だよ!」とか言ってしまうことはあるけれど。乳幼児に向けて「親が死ぬ」ってあんまりでは。

晴子さんには、子どもたちの保育園時代に事故で亡くなったママ友がいる。家族ぐるみで親しくしていたので、胸を痛めながら残された子たちの悲しみを間近で見守っていた。当然晴子さんの子どもらも「友だちのママが亡くなった」と、不安定になった。死をはじめてリアルに感じ、夜中に泣き出したり、親と離れることをいつも以上に怖がったり。

そんな状況で「ママおば」を読ませなくないと思うのは、妥当な判断だろう。