できないだろうし、やる気もないだろう。自らが微塵もできないことを、NHKを筆頭としたマスメディアはジャニーズ事務所にだけ押し付けている。半世紀以上にわたり、歩調を合わせて、ジャニーズという巨大なムーブメントを共に築き上げてきたマスメディアが、表向きは反省の弁を口にしつつも、責任はジャニーズにのみ押し付ける。掌返しとはこのことで、私には、段々とジャニーズ事務所のほうが被害者に見えてきたくらいだ。

 そもそもは、「週刊文春」はどれだけジャニー喜多川氏の性被害問題を報じ続けても、他のマスメディアが報じないので、今年4月、日本外国特派員協会という場を借りて、被害者の実名顔出しの記者会見を行ったのが端緒だった。それを誰が仕掛けたかは、ここでは特段言及しない。ただその目的は、NHKと共同通信を巻き込むことにあった。どちらかが報じれば、他メディアも追随する。そう考えて、狙い撃ったのだ。

 結果、会見翌日になってこれを報じたのがNHKで、そこから堰を切ったように各社が追随することになった。文春の狙い通りの結果となったのだ。

 では、少なくとも制作部門はジャニーズと蜜月だったNHKが、なぜ報道することを決断したのか。それは、国外の反応を無視できなくなったからだろう。日本外国特派員協会の会見は、その門戸が広く開放され、国内メディアやフリーの記者も参加可能だが、主だって海外のメディアが参加する。結果的として国外から「日本で性被害問題が黙殺されている」との声が上がることに、「それはまずい」と恐れ慄いたのがNHKということだ。それ以前に英国公共放送のBBCがこれを報道し、そもそも外圧が強くなっている中、これ以上、この問題を無視できないと判断したともいえる。そしてこれが、NHKとジャニーズ事務所の決別を意味することになった。

 結果は見ての通りだ。ジャニーズ事務所は各メディアから一斉に批判され、社名の変更まで追い込まれ、当事者の会からは、いまやさすがに首をひねざるをえないような要望まで突きつけられようになった。喜多川氏のよる性加害問題についてはその存在を否定することはできないが、ひとつひとつのケースで事実認定が不可能なことを今さら報じることにどれだけの意味があるのだろう。前述した、NHK局内での性加害についてもそうだ。