平安時代中期のルールブックといえる『延喜式』においても「陰陽師」とは官名であり、彼らの公的な身分は国家公務員でした。ドラマの安倍晴明(ユースケ・サンタマリアさん)は藤原兼家(段田安則さん)から、お妃の誰それに「お子ができないようにしろ」……という密命を受けていましたが、昔の公務員は副業可能でしたし、あのように個人に雇われてこなすアルバイト仕事も許されていたのです。『延喜式』(巻十六)において「陰陽寮」という国家組織に属する陰陽師たちの業務は(天体観測をもとにした)占術と祭祀などと定められています。この祭祀という部分に、オカルティックな要素も含まれることもあったのでしょう。ちなみに安倍晴明の占いの的中率は7割でしたが、それでも神業とされました(通常は5割も当たれば上々)。
平安時代の以前、たとえば飛鳥時代の宮廷において、陰陽師は天体観測が専業で、呪詛などの業務は、その名も「呪禁師(じゅごんし)」という公務員が一手に引き受けていたのです。もちろん呪詛といっても、もともと敵を呪い殺す秘術ではなく、病気を治すための方術を悪用するというのが前提です。呪禁師たちが「典薬寮」――つまりいまの厚生労働省的な組織に属していたことからも象徴的なのですね。
そういう呪禁師たちがあまりにオカルティックなことをやりすぎた、あるいはさせられすぎたことをおそらくは咎められ、公の世界から姿を消したのは「女帝」として知られる孝謙天皇の御世でした。そして、この時代以降、陰陽師が呪禁師の呪詛関連の仕事まで担うようになったのです。
しかし、派手な呪術合戦は陰陽師の得意とする分野ではありませんでした。中世の説話集を見る限り、安倍晴明と敵対する陰陽師の間にはオカルト戦争のようなこともあったようですが、そういう戦いには本来、平安時代末期以降、中国から入ってきた密教系仏教の知識を駆使したようです。