今とは比べ物にならないほどの労力がかかる当時の推し活。クラッシュ・ギャルズがいかに時代の寵児とはいえ、なぜ彼女たちはそこまでの熱量を持つことができたのか。
伊藤「現金書留の話だけじゃなく、情報を回すにしても、雑誌で情報を仕入れて、そこから家電で他の隊員たちに回すわけですが、お父さんが出たり、遅くなったりしたらまた改めてかけたり。本当に不便です。移動は『青春18きっぷ』を使って、最安の価格で最短のルートで寝ずに行くしかなかったんです。今みたいにネットがあるわけじゃないですけど、隊員同士で『このルートのほうが安いよ』『こっちのほうが早い』って情報がシェアされていました。でも、そういう不便で障害がある時の愛情って余計に燃えるんですよ。今みたいにスマホでなんでも済む時代とは違った、不便だからこその強い愛情。愛というか、執念ですよね。それに今のアイドルグループは『歌って踊ってかっこいい』だけど、クラッシュ・ギャルズは『歌って踊って、殴り、殴られ』の世界なので、感情がより乗っかるんですよ。だから当然、通常のアイドルよりもファンの熱量が高くなりますよね」
当時の少女たちの熱量は想像を絶する。推し活という言葉が近年流行しているが、80年代の推し活の熱さはハンパではなかった。
伊藤「例えば、千種さんのファンだったら、彼女が『宝塚歌劇団が好き』と言ったら、みんな宝塚を観にいくんです。当時流行っていたD’LITES CLUBやSAILORSの服が好きだと言ったら、ファンもみんなそれを着る。これを食べるのが好きですと言ったら、ファンもみんなそれを食べる。飛鳥さんだったら、彼女がある女性シンガーを好きになってライブに行ったことが分かると、私たちはそのシンガーのシングルやアルバムを全部揃えて、すべての歌を最初から最後まで頭に入れるんですよ。1曲も覚えないという選択肢がないんです。