ジョニデは相変わらずの変人ぶりだし、豪州出身のミア・ワシコウスカはハリウッドに迷い込んだ感があって、現代的なアリス像にうまく合っています。ルイス・キャロルが妄想した世界を、ティム・バートンは独自の色に染めています。

 でもね、ティム・バートン作品を昔から観て、親近感を抱いていたファンは、一抹の寂しさを『アリス・イン・ワンダーランド』には感じてしまうんですよ。

 ティム・バートンのファンは、『ビートルジュース』(1988年)や『マーズ・アタック!』(1996年)などのおかしな世界に夢中になったものです。ジョニデが主演した『エド・ウッド』(1994年)や『スリーピー・ホロウ』(1999年)は映画史に残る名作です。世間から理解されない者の哀しみが、スクリーンから痛いほど伝わってきました。その点、ディズニーに凱旋して制作した『アリス・イン・ワンダーランド』はゴージャスはゴージャスなんだけど、過去のティム・バートン作品の自己模倣に過ぎないんですよ。

 ティム・バートンが製作総指揮したストップモーションアニメ『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993年)と違って、CGを多用しているのも違和感を抱いてしまう要因です。ティム・バートンっぽいけれど、かつてのティム・バートンとは違う作品に感じてしまいます。

 ストーリー的にも、これまでのティム・バートンとの違いが現れています。『シザーハンズ』の「ハサミ男」エドワードや『バットマン リターンズ』(1992年)のペンギンといった哀しみを背負ったモンスターたちに、観客は感情移入して号泣したものです。

 しかし、『アリス・イン・ワンダーランド』では、頭の大きなことがコンプレックスになっている赤の女王やアリスが戦う怪物のジャバウォッキーは、最初から最後まで悪役のまま。いかにもディズニー作品らしい、勧善懲悪の物語にまとめられています。

ヒットメーカーとなり、変節する人気監督たち