ウサギ穴を潜り抜けると、そこは幼い頃に訪れたワンダーランドでした。かつては色彩豊かな陽気な世界だったのに、どこか様子がおかしいことに気づきます。マッドハッター(ジョニー・デップ)らお茶会のメンバーと再会したアリスは、その理由を知らされます。赤の女王(ヘレナ・ボナム・カーター)の恐怖政治によって、ワンダーランドは暗いアンハッピーな世界になっていたのでした。

 正義感の強いアリスは、赤の女王の妹である白の女王(アン・ハサウェイ)らの力を借りて、赤の女王がいる城へと向かい、対決に挑むのでした。

男性クリエイターが思い描く、理想の美少女像

 1898年に死去した原作者のルイス・キャロルは、生前から幼女好きで有名でした。生涯独身を通し、女の子たちのヌード写真をばんばん撮っていたことが知られています。今の時代なら即アウトです。小説のモデルになった実在のアリス・リデルをルイス・キャロルがカメラに収めた写真は今も残っています。確かにアリスはちょっと目を惹く美少女です。20歳も年下のアリスに、ルイス・キャロルは結婚を申し込み、当然ながら断られています。

 これまで『不思議の国のアリス』は、ディズニーアニメをはじめ何度も映画化されていますが、ほとんどの作品のアリスは、大人の男性が想像する「清くておおらかで、好奇心旺盛な」聖少女像として描かれているんじゃないでしょうか。宮崎駿アニメのヒロインに近いものがあります。男性クリエイターが思い描く「理想の美少女像」の冒険談だからこそ、繰り返し映像化されてきたように思います。

 ティム・バートンの映画界でのキャリアは、ディズニー社から始まりました。最も初期の短編映画『フランケンウィニー』(1984年)は、ディズニー社が制作費を出資しています。『アリス・イン・ワンダーランド』は、ティム・バートンにとって久々のディズニーへの帰還でした。大予算を与えられたティム・バートンは、大ヒット作『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)を上回る、超ゴージャスな世界を創り出しています。