残忍で、むごたらしく、卑劣極まりない刺殺事件。これが「偶発的な事件」の一言で片付けられていいはずがない。改めて、中国の当局は「現実」を直視すべきであろう》

 子どもが殺された9月18日という日は、満州事変の発端となった「柳条湖事件」が起きた日である。

「毎年9月18日は防空サイレンが鳴らされます。防災訓練の一環だと中国側は言いますが、そこには『あの戦争を忘れるな』という明確なメッセージが含まれています」(深圳市に住むさる日本人)

 新潮も文春も、中国で起きている日本人に対する悪意と誤解に基づいたSNS上での誹謗中傷が激しくなっており、これまでも各地の日本人学校への投石や盗撮は頻発していたと報じている。

 中国側の「偶発的な事件」だといういい分を素直に聞くわけにはいかない。

 日本側も、すぐに外務大臣クラスを中国へ送って、向こうの要人たちと直談判すべきなのに、上川大臣の動きも鈍かった。

 犯人は漢族で無職。これまでも公共通信施設を破壊したり、虚偽情報を流した公共秩序騒乱容疑で身柄を拘束されたことがあるというが、子どもを襲った動機は発表されていないという。

 この子どもの父親は日本人で、母親は中国人だという。父親は中国が好きで、上海師範大学に留学し、そこで知り合った中国の女性と結婚したという。

 就職先は大阪市内にある貿易会社で、今年初め、深圳にオフィスができ、駐在員として赴任したというのである。

 彼にとってみれば、大好きな中国で仕事ができるという夢がかなったのに、このような悲劇に見舞われるとは……、複雑な思いでいるのに違いない。

 新潮は、父親がSNSに上げたのではないかとみられる「手紙」があると報じている。

 そこには、最愛の子どもを失った悲しみが綴られているが、こんな記述もあるという。

〈私は中国を憎んでいません。同様に、日本も憎んでいません。国籍に関係なく、私たち両国を自分たちの国だと考えています。(中略)私は、歪んだ思想をもつ一握りの卑劣な人々の犯罪によって両国関係が損なわれるのを望んでいません。私の唯一の願いは、このような悲劇が二度と繰り返されないことです〉