現場は、日本人学校の校門まであと約200メートルの場所だった。シンガポールのメディア「聯合早報」は学校の近所の住民による次のような目撃証言を伝えている。

〈現場には電動自転車が倒れていた。幼い男の子が血だまりの中で目を見開いて横たわっていた。母と思われる女性が近くで泣いており数人の通行人が少年に心肺蘇生処置を行っていた〉

 母親と思しき女性は中国語で「私の子に何をするの」「助けて」と叫んでいたという。現場に救急車が到着したのは8時5分。

「被害に遭った子の20~30メートル後ろを歩いていて“助けて”という声を聞いて駆け寄り、救急車にも一緒に乗り込むことになった保護者の方がいます。その方は同じ学校に子供を通わせている中国人のママで、被害に遭った子のママの友達でもあります」

 そう明かすのは、水野さんの妻である。

「そのママは被害に遭った子が救急車から病院に運ばれるのを見届けた後、その足で学校に自分の子供を引き取りに来た。私も事件後、自分の子供を迎えに学校に行きました。それでそのママとエレベーターで鉢合わせになったのですが、彼女の服は元の色が分からないくらい血まみれでした。現場で救命活動を手伝った時に自分も血だらけになってしまったのでしょう」

 しかし被害男児が腹部や脚に負った傷はあまりにも深く、翌19日午前1時36分、死亡が確認されたという。

 水野さんが言う。

「刺された子が救急車で運ばれたというのは妻から聞いていたので、何とか助かってほしいと思っていたのですが……。犯人は現場ですぐに取り押さえられたようです」

 被害男児と同じ日本人学校に子供を通わせている別の保護者は言う。

「9月23日、亡くなった児童のお別れ会があり、日本人学校の児童および保護者、合わせて100人くらいが参加しました。亡くなった児童の母親と母方の祖母が声を出して泣いている一方、父親は涙をこらえてわが子を送り出していました。ひつぎの中のご遺体は安らかな顔をしていましたが、どれだけ痛かったのかと思うと……」