その際、道長から斉信の本気度を試すために、彼が仕えていた伊周・隆家兄弟のことを調査・密告せよと迫られ、斉信は拒めなかったのではないかと想像されます。もちろん、斉信は被害者である花山院から口止めを頼まれていたでしょうから、伊周・隆家兄弟だけでなく、院のことも裏切ったことになります。しかし、そこまで多くの恨みを買ってでも、少しでも自分が有利に生き残るため、斉信は道長側に付こうと考えたわけですね。

 道長は、伊周・隆家兄弟には花山院襲撃事件に加え、数々の冤罪をなすりつけました。史実では、その冤罪で確実に彼らを失脚させるつもりだったのでしょう。ドラマでも彼らの母親である高階貴子(板谷由夏さん)のセリフで「祈祷を行わせた」というものがありましたが、あれも道長の手で大問題にでっちあげられてしまっています。

 道長の「告発」によると、伊周・隆家兄弟は、天皇の命でしか行ってはいけない「大元帥法(だいげんすいほう)」という祈祷を行わせていたそうです。そういう虚構の「罪」に対する「罰」として彼は大宰権帥(だざいごんのそち)、弟・隆家は出雲権守に降格され、左遷=流罪が決定しました。ドラマでは死刑から罪を一等だけ軽くしたという描かれ方でしたが、当時は死刑が名目上廃止されており、流罪はそれに次ぐ大罪ということになります。

 さらに伊周・隆家兄弟には、体調不良に悩んでいた道長の姉・藤原詮子(東三条院・吉田羊さん)を呪詛したという罪まで道長の手でなすりつけられていたのです。ドラマでも道長の正室・源倫子(黒木華さん)が、「悪しき気を感じる!」といって詮子の周辺を調査させたところ、陰陽師が関与したと思しき、あやしげな御札が貼られた壺などが見つかったりしていましたね。