しかし、花山院の本当の恋人は、為光の四女・儼子で、すべては伊周・隆家の盛大な勘違いだったのです(ちなみにこの二人の女性は、花山院がかつて愛した忯子の異母妹です)。ドラマでは射撃を受けた院自身は矢で脅される程度で済みましたが、史実では袖に矢が突き刺さったとされています。ただドラマでも描かれた通り、院の従者二名が伊周の従者に殺され、犠牲者の生首が持ち去られるなど凄惨な結末になってしまいました。
当初、この事件は花山院の意向で、内々にされ、沈静化するはずだったようです。花山院はすでに髪をおろした出家者です。出家後でも色恋の誘惑に負けているのは当時、もっとも恥ずべき行為でしたので、スキャンダルを恐れた院は被害者であるにもかかわらず、周囲に箝口令を敷き、事件をなかったことにしようとしていたのですね。
しかし、この事件について藤原為光の息子・斉信(金田哲さん)からの情報提供を受けた道長(柄本佑さん)が、平安京における警察組織に相当する検非違使(けびいし)の長官・藤原実資(秋山竜次さん)に情報を流したので、花山院の隠蔽の意向もむなしく、事件は世間に明らかになってしまいました。
斉信から道長への情報提供は、「長徳の変」勃発以前から行われていたと考えられます。斉信は長い間、伊周・隆家兄弟の父(で、道長の長兄)の藤原道隆(井浦新さん)の派閥の人物でしたが、道隆が糖尿病で早逝し、伊周・隆家兄弟に人望がないことから、権勢を振るう道長の派閥に鞍替えしようとしていたのでしょう。
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