◆“悔しいという気持ち”が自分にとって大事な価値観

劇団ひとり
――なかなか極められないから続けていられる職業なんですね。

ひとり:もしも僕がもう完全にお笑いっていうものを攻略して10割いつでも好きな笑いを取れてるってなったら、とっくに辞めてるかもしれないです。まあ、そうなりたくて頑張ってるけど、実際そうなっちゃったら、辞めてんのかもしんないです。もう飽きちゃってね。

やっぱり「ウケるかな? スベっちゃうのかなあ? ダメだったかな」とか、そういうのがあるから面白いんだろうなと思います。それは別にお笑いに限んないけど、世の中にある全部の仕事、スポーツにしたってそうかもしれないけれど、上手くいかなくて、そのことにちゃんと悔しがれるっていうのがないと。

逆にその悔しいっていう気持ちがあるってことが、自分にとっての大事な価値観なのかもしんないですね。だって僕が別にバッターボックスに立って三振したって何も悔しくないけど、それは僕にとっての野球だからで、野球選手からしたら、なんであの球が打てなかったんだってって、夜も眠れないわけでしょ。

逆にその野球選手が、バラエティのコメントでスベって夜眠れないってことはないと思うんですよ。やっぱり自分がどこに対して悔しいって思うかは、自分にとっての価値観なんだろうなとは思いますけど。その悔しいも、糧にしてってことですよね。糧にして、明日はもうちょっと、と。悔しいから、またやりたくなるんでしょうね。

――簡単にできちゃったら、確かにつまらなそうです。

ひとり:ね。簡単に出来るようになりたくて練習してんだけど、実際になっちゃったらつまんないんだろうなっていう。だからすごい矛盾してますよね。まあ、なんでもそうだと思うんですけど。ゴルフ好きだけど、ゴルフなんか全然上手くなんないんですよ。

もう10年以上やってるけれど。でも毎回落ち込んで帰るんすけど、だから面白いんだろうなと思うんです。今回の映画だって、簡単に謎が解けちゃったらつまんないんですよ。開始早々5分でもう犯人分かったってなったら、たぶんやっても何も面白くないでしょうね。

だから人生ってのは、ほどよく難しいのがちょうどいいんでしょうね。難しすぎると今度は投げちゃうから。ちゃんとご褒美ももらいつつ、悔しがるっていう、そのくらいがちょうどいい。