しかし宮中のルールにおいて、天皇の数だけ、その正室にあたる「中宮」が存在してもよいものではなかったのです。また一度、「中宮」の位を与えると、それを明確に取り上げて廃后しないかぎり、その女性が亡くなるまではその方が「中宮」のままというルールもあったので、過去に「中宮」の位が与えられた女性が存命中なら、新たに「中宮」を任命することは不可能だったのです。
ですから円融天皇(ドラマでは坂東巳之助さん)の時代に「中宮」となっていて、当時もまだ存命中だった藤原遵子(ドラマでは中村静香さん)を円融天皇の「中宮」ではなく「皇后」と呼ぶことにしよう……と、ルールを捻じ曲げるような「新解釈」を施し、その結果、定子は一条天皇の「中宮」になることができたのですね。
しかし、こうやって「中宮」になれた定子が存命中なのに、一条天皇に新たな正室格の妻として彰子をあてがおうというのは、いくら道長が権力者だったとはいえ、反発必至の無理筋な行いでした。
この大問題をクリアするべく、道長のために働いたのは、一条天皇の側に「蔵人頭(くろうどのとう)」として仕える藤原行成(ドラマでは渡辺大知さん)で、道長は行成からアドバイスされた通り、「定子は、仏教の戒律に従って出家した尼なので、神道の行事である神事が行えないからダメ」という論理を使いました。