そのような「配慮」をしたところで、すべてに対して公明正大でいなくてはならない現役の天皇が、出家した女性と復縁するなど完全なタブー破りで、当時の倫理的ルールを無視したとんでもない行為でしたから、世間の批判の的になってしまったようです。ドラマ同様、藤原実資(秋山竜次さん)は批判めいたことを日記『小右記』にサラッと書き込んでいます。

『小右記』の「長徳三年六月二十二日の条」によると、彼が体調不良の藤原詮子(東三条院・吉田羊さん)のお見舞いに出かけたという記事に続き、「今夜、中宮が職御曹司の建物にお移りになった」と記し、「天下甘心(かんしん)せず」と批判しています。興味深いのは、「彼宮(中宮定子の周辺)」の人々が「(定子さまは)出家せずと称し給う云々」という部分です(原文を書き下し)。

実資は『小右記』の「長徳二年五月二日の条」において、「后昨日出家給云々」――「中宮定子さまは昨日、出家なさった」という中宮職の役人の談話を書き記しており、職御曹司にいる定子の取り巻きが、「本当は定子さまは出家していない」などと嘘を喧伝していることに不審の念を抱いていることがわかります。

 定子が滞在した職御曹司とは、『枕草子』によると「木立は古びて建物も恐ろしげ」な廃屋同然の建物だったようです。同書には「初めて官職にありついた六位の蔵人が、職御曹司の壁板をはがして笏(しゃく)にする」という驚きの風習についても触れられています。職御曹司が普段は使われていなかったのをいいことに、建物の一部(具体的には辰巳の方角にある壁の木材)が新米役人たちの手でこそぎ取られ、当時の官僚たちが現代のメモ用紙の代わりに手にしていた笏の材料にされていたわけですね。