しかもその後の場面での宋人の上司・朱仁聡(浩歌さん)のセリフから推測すると、周明は本心ではまひろが好きだったらしく、我々は何を見せられていたのだ……というさらにガッカリな結末を迎えてしまいました。要するに「ハニートラップ」にかこつけるしか、自分の好意もまひろに伝えられないチキン野郎だったのか、という話です。

 たしかに宋王朝時代の中国においては「生まれた身分にとらわれず、才能ある者を国家の役人として取り立てる」という名目で「科挙」が行われていましたが、この厳しい試験に合格するには優秀な家庭教師を雇い、子どもたちを勉強にだけ専心させ得る富裕層が圧倒的に有利でした。当時の日本以上に、あるいは現代日本同様に、宋での「科挙」合格には「親ガチャ」要素が重要だったというわけです。

 また、宋の時代から上流階級の女性には、不自然なまでに小さな足が要求されるようになったといわれ(諸説あり)、幼女時代から足を布できつく縛るなどの「纏足(てんそく)」という悪習が根づきつつありました。纏足とは、男性が女性の身体を自分の「おもちゃ」のように公然と弄ぶための準備です。仮にまひろが宋に行くことがあれば、彼女は「日本人」で「女性」であるということに加え、「纏足」をしていないため、日本以上に生きづらい日々が待っていたのではないでしょうか……。

 まひろと周明のロマンスが不発に終わる一方、京都では一条天皇(塩野瑛久さん)による中宮・藤原定子(高畑充希さん)への妄執がすさまじく、ついには内親王を産んだばかりの彼女を宮中に帰還させることになりました。史実でも「宮中復帰」後の定子が滞在したのは、宮中・内裏の建物から見て北東方にあった「中宮職(中宮に関する仕事を任せられた役人)」の政庁という意味の「職御曹司(しきのみぞうし)」という建物だったので、出家した定子を厳密には宮中に戻らせたわけではない……という、まことに苦しい言い訳つきの帰還ではありました。