King & Prince「ichiban」を手がけたRIEHATAの“若さ”

ーーQ-TAROさんが振付のお仕事を始めたころから比べると、アイドル業界も日々進化していることと思います。変化を感じることはありますか?

Q-TARO ここ10年くらいでいうと、明らかにアイドルの子たちのもともとのスキルが上がっていますよね。特別にレッスンをやってこなかった人でも、うまい。その理由としては、若いうちにダンスに触れる機会が多くなっているからかなと思っています。TikTokのダンス文化も10年前には考えられなかったものですし、スマホを見て踊りを覚えるってことが、そもそもなかった。若い方々がみんなが踊りに触れる機会が増え、そういったものも含めた広い意味での“ダンス人口”の増加とともに、レベルが如実に上がっています。いま踊ってる若い子たちは、ダンスのなかのある部分だけを切り取ったら、僕なんかよりも全然レベルが上の子もたくさんいると思いますよ。

――ダンスそのものの敷居が低くなっている、ということもあるのでしょうか?

Q-TARO そうですね。僕たちが踊り始めたのは、バンドでいえば『イカ天』(三宅裕司のいかすバンド天国、1989~1990年)がやってたような時代です。学校にダンス部を作ろうとして、先生たちに煙たがられたりしていましたから(笑)。

――いまの高校のダンス部なんて、すごく健全なイメージに満ち満ちていますよね(笑)。

Q-TARO そうそう、本当にいい子ばっかりです(笑)。2024年夏季のパリ五輪にも、新種目として「ブレイキン」が採用されますし、時代が変わって本当によかったなと思いますね。

――踊れる人が増えたことで、振付も高度になっていたりするのでしょうか?

Q-TARO ダンスの変化って、結局のところ音楽の変化なんですよ。1970年代のソウルミュージックは、ドラムなどの打楽器がすごく効いた音楽だったので、それに合わせてディスコのステップを踏んでいた。1980年代からラップは、どちらかというと早いビートだったのでブレイクダンスが流行り、1990年代のHIPHOP全盛期には、日本でいうとEAST END×YURIのような、うねうねした柔らかい音楽に合わせてゆる~く踊るようになりました。2000年代以降は、歌詞を重視するような曲が増えてきます。例えばエミネム主演の映画『8 Mile』(2002年)の曲は、ものすごくシンプルなビートだけど、たたみかける言葉、歌詞の羅列がすごい。その細かいラップに合わせて、音をとって踊るようにとダンスも変化していきました。

 そして現代の楽曲は、ビートも歌詞もすごく早くて、ダンサーはその音のすべてを取るようになっています。ラップの高速フロウみたいなものがダンスにも入ってくるし、かと思えば裏のキックやスネアを細かく取るようなシーンもある。昔からやっている僕からすると「そんな早く動けないよ!」って(笑)。同じ2小節を踊るにしても、僕たちの時代は2小節に10個のところ、いまの子たちはたぶん25個、30個ぐらいやるっていうくらい、手数が違います。だからこそ、アイドルも含めていまの子たちは大変だなあと思いますが、でもそれが当たり前だと思って育ってきてるから、きっと大変だとは思ってないんでしょうね(笑)。

――アイドルグループの数も増え、振付師といわれる人たちも以前より増えてるかと思います。若い世代がつける振りも、以前とは違ってきているのでしょうか?

Q-TARO 違いますね。例えば、TikTokでバズったKing & Princeさんの「ichiban」(2022年)を手がけたRIEHATAさんの振付と僕の振付とでは、やっぱり全然違います。ただし、オーダーする側もダンスの知識がある人が増えているので、難しいダンスをやりたいときはRIEHATAさんに、シンプルでわかりやすいものだったら僕に、あるいは大人数でキレのある踊りがやりたいのなら、バブリーダンスのakaneさんにお願いする……といったように、クライアントの選択肢が昔に比べて広がったともいえると思いますね。