45歳になった倫子の姿を、平安時代に書かれた『栄花物語』という歴史物語では、「ささやかに、をかしげに、ふくらかに、いみじう美しき」――倫子さまは45歳を迎えてもなお、横に膨らんだりせず、魅力的で、ふっくらとしてたいへんにかわいらしい! と褒め散らかしています。

「ささやかに」という古語には「小柄」という訳語を当てはめることも多いのですが、その直後に「をかしげに」という形容があるため、たんに小柄というだけでなく、倫子は多くの子どもたちの母親なのに、肝っ玉母さん的な外見的・内面的なゴツさは微塵も感じられないというニュアンスが感じられます。「ふくらかに」というのも、太めというのではなく、当て字をすれば「福らかに」くらいでしょうか。「幸せで溢れている」というイメージです。

 おまけに45歳を過ぎてもなお、倫子は自分の娘たち以上に「御髪の筋こまやかにきよらにて」――しっかりとしたハリとコシをもった黒髪の持ち主であったそうですよ。男性だけでなく、女性も年齢によって髪質が変化し、美しい黒髪ロングというヘアスタイルを保てるのは、お金と、時間的余裕と、生まれながらに恵まれた髪質の持ち主だけという厳然たる事実がありますが、倫子はそのすべてに恵まれていたのです。

 おまけに倫子は活動的な女性でもあったので、天皇の後宮に入った複数の娘を訪ねては、その子どもたちの世話をするなど何回も出かけています。道長と倫子が同じ牛車で宮中を訪ねたこともありました。『栄花物語』によると、倫子のような嫡妻(正妻)を持つことができた幸福な道長は後年、「男は妻(め)がらなり」と言ったのだとか。