本曲は、サビの頭で伴奏が「Stop」という歌詞の通りに静止し、前田のハイトーンボイスが大きく際立つアレンジも秀逸であった。その広い音域や声量はもちろん、一音一音の音程に自由な装飾音を加える操作俗に「フォール」「しゃくり」「こぶし」と呼ばれるもの) や強いビブラートでロック~ソウル的なニュアンスを自由に加えていく前田の情報量豊富なボーカル技術は、当時のアイドル然とした売り方の範疇から大きく逸脱しており、紛れもなく「実力派ボーカリスト」と呼ぶに値するものである。このアレンジは、そうした彼の能力を分かりやすく見せつける効果を担っていたように思える。

 こうして達成された、「清涼感・爽快さのあるサウンドデザイン」と「高い歌唱力を持つ熱いボーカル」の両立は、その後も「SUMMER DREAM」(‘87)などのシングルを通じて育まれ、前述した90年代の更なる成功の土台となっていった。

 ただし、ここまでの説明にはまだ重要な点が欠けている。80年代の末まで彼らのシングルA面曲はバンド外からの提供曲で占められていたが、1989年を境にメンバー自身による作詞・作曲体制に移行し、さらにほどなくして編曲面もバンドが単独名義で担うようになっていくという事実だ。

 ここからは、彼らがバンドとしてより強い自我を獲得し、「黄金の90年代」を築いていったプロセスをより詳細に見ていこう。

 メンバー自身による制作曲は早い段階からシングルのB面に取り入れられていたものの、作詞・作曲でA面に関与したのは、前田が作詞を担当した「Remember Me」(‘88)が初であり、デビューから丸4年以上経ってからのことだった。かねてより自作曲での活動に強い意欲を示していたバンドは、続くシングル「SUMMER CITY」(‘89)を皮切りに、ついにバンドメンバーによる作詞・作曲体制への移行を果たし、同年末の「Stories」からは編曲もTUBE名義でクレジットされるようになる。柔らかな音色のギターとフレットレスベース、繊細なシンバルワークによりメンバー全員で楽曲の導入部を彩る「Stories」は、まさに彼らの新章を告げる隠れた名曲である。