親の介護、家事の寄与分を考えるのは難しい

もちろん、この寄与分があるかないかも相続人全員の話し合いで決めることになります。ただ、寄与分があったとしても、最も頭が痛いのは寄与分の金額です。例えば、「入院や手術のために〇万円出した」というのであれば話が分かりやすいのですが、介護や家事は金銭的な換算が難しく、相続人全員が納得する金額を提示することは至難の業です。

もし遺産分割の話し合い(協議)が調わなければ、家庭裁判所で調停を申し立てて、法的に決めていくこともできます。しかし、できれば相続人同士が歩み寄って、うまく落としどころを探っていく方が、その後の人間関係を考えれば、得策だといえます。

相続トラブルを回避するには?

このようなトラブルを回避するために最も有効なのは、被相続人の遺言書です。遺言書の中で、妹に多くの遺産を相続する旨を記載し、自分の世話をしてくれたので、といった理由まで添えておけば、母親や姉から異論が出る可能性はかなり低くなります。

ただ、この方法にはいくつか問題点があります。まず一つは、自分の親に遺言書の作成を促すことははばかれる上に、自分の遺産を多くしてほしいとはなかなかいいにくいことです。遺言書はあくまで自分の意思で作成するものですから、いくら子どもとはいっても、他人が口出しすることはトラブルの原因になります。

二つ目の問題点は、遺言書を書くタイミングです。相続の際に遺言書をめぐるトラブルで多いのが、被相続人がいつ書いたかという時期です。もし、いくらか認知症の兆候が表れていた時期に書いていたとしたら、相続人の中に「この遺言書はきちんとした認識があって書かれていないのではないか」と疑問視する人も出てきます。そうなると、遺言書を書いた時期と被相続人の健康状態を検証する作業が必要になってきます。

寄与分を請求するための2つのポイント

以上のように考えると、寄与分を請求するには2つのポイントがあります。一つは、他の相続人を味方につけることです。先ほどの例でいえば、同居している母親は娘(妹)が父親を介護したり、家事を手伝ったりする姿を間近で見ているわけですから、相続の段階になったら、寄与分について理解してもらうことは比較的容易にできるかもしれません。

また、自分の寄与分がいくらぐらいになるのか、あらかじめ相続分野を専門としている弁護士に相談しておくのも、もう一つの方法です。ただし、相続が開始して、いきなり弁護士の名前を出すことは、他の相続人を硬化させることにもなりかねません。あくまでも、どのような考え方で寄与分を計算するかのアドバイスを事前に受ける形にしておきましょう。

文・井上通夫(行政書士・行政書士井上法務事務所代表)

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