上杉景勝を演じる津田寛治さんは、これまでの大河ドラマでも、出演するたびに違う印象の演技を見せてくれた俳優です。津田さんが景勝を演じると聞いたとき、ややエキセントリックな徳川慶喜をなだめていた『西郷どん』(2018年)での松平春嶽の演技が印象的だったので、今回もそのような方向性になるかと思っていたのですが……実際の放送を見て驚かされました。「徳川殿は狸と心得ておくがよい」と三成に助言するなど、『どうする家康』の景勝は頭の切れる人物ではあるようですが、台詞回しなどからはやや直情的な印象を受けました。無口でドッシリと構えていたとされる史実のイメージとは異なる方向の演技が、意識的になされていたように思います。家康目線のドラマである『どうする家康』にはいまだに直江兼続も登場しておらず、このドラマにおいて、景勝どころか上杉家中全体の扱い自体、やや軽いのかもしれません。
それに対し、毛利輝元を演じる吹越満さんは、本心と行動はあくまで別という怪しげな雰囲気をぷんぷんと漂わせており、登場時間こそ短かったものの、存在感は抜群でした。史実の輝元の言動にも見られた、二転三転の「裏切り」を見せてくれるのではないかと期待したいところです。
輝元はその度重なる「裏切り」が露見した際、安国寺恵瓊などに責任を被せるつもりでしたが、結局は本人も責任を取ることになりました。徳川家の全盛期だった江戸時代には、こうした逸話を持つ輝元は、「裏切り者」だけでなく「愚か者」という低評価まで受けることになります。秀吉はこのドラマにおいても「戦には勝たんでも、戦から利益を得る方法はいくらでもある」との言葉どおりの離れ業を見せつける姿が描かれましたが、史実の輝元は「戦に負けて、うまく立ち回ったつもりの外交でも実はボロ負けしていた」という悲惨な運命に泣くことになるわけで、ドラマの輝元がどんな立ち回りを見せるか楽しみです。
慶長5年(1600年)9月の関ヶ原の戦いは、会津の上杉景勝に謀反の疑いがあるとして、家康が会津討伐を決定したときにすでに始まっていたといえます。この年の7月に大軍を率いて大坂城・西の丸を発った家康は、いったん江戸に戻って軍備を整え、そこから会津に向けて進軍する計画でした。しかし、家康不在となった上方では、輝元の手で隠居したはずの石田三成が、実は輝元たちと結託して「西軍」を密かに形成しつつあったのです。