自分の演奏に身を委ねることができた。音楽に満たされることができた。ようやく、パパの境地にたどりつくことができた。そう感じた響ちゃんを抱きしめたパパは、響ちゃんをホメちぎりながらこう伝えるのでした。

「第3楽章の第2主題、少し走ったね。あそこを修正すればファイナルでもっといい演奏できるよ。がんばって!」

 ここ、見てて「うわぁ……」って声出ちゃった。きついきつい。明確にして厳然たる敗北。

 パパの境地になんか、たどりついてなかった。死ぬほどがんばったし、もうがんばれない。響ちゃんはファイナルをボイコットし、「パパのせいで音楽が嫌いになった」と吐き捨てます。

 そうして父と娘は、音楽から離れたのでした。