■父と娘が「アパッシオナート」を失った理由

 この物語は、音楽への「アパッシオナート(熱情)」をなくしてしまった父と娘が、その失われた時間を回復するまでの時間を描いています。最終回を前に、それを失うきっかけとなった事件が明かされました。

 5年前、響ちゃんはウイーンで行われたコンクールのセミファイナルで1位という結果を残しました。しかし、響ちゃんは決して才能に恵まれたバイオリニストではありませんでした。

 子どものころからコンダクターである父に憧れ、父と一緒に演奏することを夢見てきた響ちゃん。恵まれた環境で練習に励んでいましたが、中学生くらいになると周囲に置いていかれるようになります。

 練習するしかない。響ちゃんはママの制止も聞かず、寝る間を惜しんで鬼錬に没頭することになります。

「今のままじゃ意味がない、音楽を聞かせる資格がない、圧倒的じゃなきゃパパと同じ舞台には立てない」

 ただ楽しかった音楽が、それを深く知ることによって苦しみに変わっていく。それでも練習するしかない。そうして迎えたコンクールで、響ちゃんに奇跡が訪れたのでした。