2019年に金融審議会が発表した「高齢社会における資産形成・管理」によれば、平均的な退職後の夫婦の場合、30年で2,000万円の貯金が必要とされています。「老後資金2,000万円」は一つの目安にされていますが、2,000万円は大きな額ではあるものの、それをクリアすると誰でも安心というわけではありません。今回は60歳時点で2,500万円準備したにもかかわらず、自分たちの家計を把握していなかった夫婦の失敗談をご紹介します。

貯金と退職金で老後資金2,500万円に

(写真=PIXTA)

生活費のことで相談に来られたBさん(70)は、高校卒業後有名な食品会社に就職、再雇用も含め65歳まで勤め上げました。貯金は700万円ほどでしたが、退職金が1,800万円ほど出たので、老後資金は60歳時点で2,500万円ほどあったとのこと。

退職金をもらった後の数年は夫婦で海外旅行などを楽しみましたが、それを除いても貯金額2,000万円はクリア。その後は特に贅沢をせず普通に生活していたため、すっかり安心していました。

普通の生活で月々10万円の赤字に

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ところが退職から5年経った頃、貯金が1,000万円近く減ってしまい、「このまま老後の生活ができるのか」と不安を感じ始めます。家計を詳しく見てみると1年間で120万円の赤字になっており、確かにこのままではあと12~3年で貯金が底をつきます。何故こうなったのでしょうか。

そもそも、金融審議会の「老後資金2,000万円」の根拠となったのは、平均的な老夫婦の1ヵ月の赤字が5万円であったことからきています。毎月の不足金額が5万円であれば、20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の取り崩しが必要になるからです。

Bさん夫妻の家計と金融審議会の老夫婦モデルでは最初から大きな差がありました。

表1.Bさん夫妻と平均的な老夫婦の家計の違い

Bさん夫妻 平均的な老夫婦(モデルケース)
収入 22万円 20万9,198円
食料 6万円 6万4,444円
住居 8万5,000円 1万3,656円
光熱・水道 1万6,000円 1万9,267円
家具・家事用品 9,000円 9,405円
被服及び履き物 1万8,000円 6,497円
保健医療 1万6,000円 1万5,512円
交通・通信 1万9,000円 2万7,576円
教育 0円 15円
教養娯楽 2万円 2万5,077円
その他消費支出 4万2,000円 5万4,028円
非消費支出 3万円 2万8,240円
支出計 31万5,000円 26万3,718円
月々不足額 9万5,000円 5万4,520円

※モデルケースの数字は「高齢社会における資産形成・管理」より取得

Bさん夫妻は結婚が遅かったため、70代までの住宅ローンを組む代わりに賃貸に住み続けることを選択しました。表1の平均的な老夫婦の家計の住居費は持ち家と賃貸すべての人の平均ですが、今の高齢者は持ち家の人が多いため平均的な住居費も持ち家の人に偏った額になっています。

その他の支出は抑えているものの、住居費の違いで平均的な夫婦より5万円ほど支出が多くなっていたのです。

10年間で1,000万円近く貯金が減り、一気に老後不安に

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結局、70歳時点で貯金は1,500万円まで減る羽目に。今のままの生活を続けていても80歳を少し過ぎた頃には貯金が底をついてしまいます。病気などで予定外の出費があれば老後への不安はさらに高まるでしょう。

Bさん夫妻の場合、退職前や、遅くとも退職金をもらった段階で自分たちの家計を確認していれば、夫婦2人が住むのに不便のない、家賃を抑えたマンションに引っ越すなどの対策が取れたはずです。ただ「老後資金2,000万円」という数字だけを見て、それがクリアできているからと油断したのが問題だったのです。

自分の家計の状況を把握し早めに対策を

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Bさん夫妻は住宅が賃貸だったので赤字が平均より多くなっていましたが、その他にも会社員か自営業者かによって年金額は大きく変わります。その他、普段の生活で何にお金をかけたいかで支出の額も変わってくるでしょう。「老後資金2,000万円」はある程度の目標にはなりますが、あくまで平均値ということを忘れず、自分たちの家計の状況に合った対策を考えるようにしましょう。

文・松岡紀史
肩書・ライツワードFP事務所代表/ファイナンシャルプランナー
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、 帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。

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