「現実社会がアポカリプスになっているときに、フィクションのアポカリプスをクリエイトしようとしても、集中できないわけです。だったらこの世の中の状況と切り離すことをやめて、コロナ禍で感じていることを脚本に反映させちゃおうと思って、シノプシスとはちょっと違う物語になっていったんです。この脚本を書くことが自分自身のセラピーになりましたし、永井先生の世界観と僕がコロナ禍で感じていて投影したことが、すべてナチュラルに結ばれていったという感覚でした。非常にこう、自然発生的に形になった部分が強いですね」

 キャスティングにも、光武の当時の思いが大きく反映されているという。当時のアメリカはトランプ政権下にあった。

「やっぱりトランプふざけんなと思っていたので、そこは本当にコンシャスに、丁寧にやりました。カラーブラインドキャスティング、肌の色に関係なくキャストするということをやりたかったんです。主人公の牡丹を演じてくれたトリ・グリフィスが白人だったので、相棒で父親的な役の宍倉剣は絶対的にアフリカ系かヒスパニック、マイノリティーにしたかった。でも、剣さん役のダミアン・T・レイベンはそんなところを取っ払っても、もっとも役に理解があったんですね。ほぼ即決に近い状態で出てもらいました。悪役の鬼死魁星はデレク・ミアーズというハリウッドの大物なんですが、彼は日本のポップカルチャーが大好きで、アニメオタクなんですよ。脚本を読ませたら『やらせてくれ』って話になって、『いやいや、あなたのギャラは我々では払えないよ』と伝えたんですが、サグ(SAG-AFTRA=映画俳優組合・米テレビ・ラジオ芸術家連盟)の定めるもっともベーシックな出演料でやるから、と言ってくれて、本当に出てくれた。彼規模の俳優が雇える映画ではなかったので、本当にラッキーでしたよね」

『唐獅子仮面』は永井豪の血が色濃く浸透した特撮映画であり、任侠映画でありながら、全編をアメリカで撮影し、全キャストを現地で集めたハリウッド映画でもある。その異なる世界観が不思議に融合しているのも、大きな魅力の一つだ。