また、チケットを値上げするのであれば、アーティストがそれに見合った実力を身につけることも必要だという。

「台所事情が厳しいからチケット代を上げます、というだけではダメだとは思います。現在、かぶせ音源(別録りした音源を生歌にかぶせることで歌の安定感とライブ感を両立する手法)などのデータを使わず、ライブで純粋に生歌だけで勝負しているアーティストがどれだけいるか。アイドルならそれでも構わないと思うのですが、アーティストを名乗っているのにデータ音源を使っている人もたくさんいます。仮にチケット代を2万円前後まで上げたとして、データ音源を使っているアーティストのライブがそれに見合っているのか、値段に釣り合うだけの感動をオーディエンスに与えることができるのか、というのは大きな問題です。

 そういう点では、1980~90年代から現在まで第一線で活躍しているB’zやDREAMS COME TRUE、Mr.Childrenといったベテラン勢や、最近だとONE OK ROCKやRADWIMPSWANIMAなどは、純粋な生歌で勝負しているのでさすがだと思います。しかし、ベテラン勢はあと10年、20年したら体力的にライブをあまりやらなくなるかもしれません。そうなった時、日本のエンタメが韓国や欧米と張り合えるかどうか。現在の状況を踏まえると、エンタメの質が上昇していくとは思えません。チケット代をしっかり上げて、それに見合う実力を持ったアーティストしか勝てない業界にした方が健全なのではないかと思います」

 ライブはアーティストとファンが触れ合える貴重な場であると同時に、音源やグッズの販売、ファンクラブ、配信など、すべての事業の中核に位置する。それだけに、チケット代を上げられずにライブ事業がうまく回らなくなれば、音楽業界そのものの衰退につながりかねないようだ。いずれにしても、日本のライブビジネスが大きな転換期へ向かっていくのは間違いないだろう。