病院で出産直後、検査などの名目で母子が離れた際、乳児が連れ出された。病院は母親には「赤ちゃんが病気で死亡した。既に荼毘(だび)に付された」と説明していた。軍事独裁政権の元で医師や看護師、ソーシャルワーカー、教会の聖職者、裁判官らが共謀していたため、おかしいと思った親が訴えても誰も取り合わなかった。
主に先住民のマプチェ族ら低所得層や母子家庭が標的となったとされ、連れ去られた乳児は米国やカナダ、オランダ、ベルギー、フランス、イタリア、ドイツなどで強制的に養子縁組され、事情を知らされていない養子希望者の親に育てられた。
一連の流れの中で、関係者は報酬や賄賂を得ていたとされ、軍政下での「人身売買」の仕組みが出来上がっていた。
この事実は1990年にチリが民政化された後も、しばらく表面化しなかったが、2014年、チリの報道機関が報じたことで世界が知ることとなった。自分がチリで生まれたと聞かされていた人々が続々と調査団体に名乗り出た。チリの支援者組織によるとこれまでに約650人が実の親との対面を果たしたという。8月にも米バージニア州に済む42歳の男性が、チリ中部のバルディビアに住む実の母親と再会し、米国で広く報じられた。
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