東西冷戦の只中、ラテンアメリカでの社会主義化の拡大を食い止めたい米国は、アジェンデ政権打倒に向けた秘密工作を繰り広げた。CIA(米中央情報部)はアジェンデ政権に反対する民間企業や軍に深く入り込み、社会情勢を不安定にさせる陰謀に多額の資金を投入した。

 1973年9月11日、ピノチェト将軍率いる軍がクーデターを決行した。投降を拒否するアジェンデ大統領がいる大統領宮殿を空爆するなどして実権を掌握、16年以上に及ぶ悪名高い軍事独裁政権がスタートした。アジェンデ大統領は、軍が大統領宮殿になだれ込む直前に自殺したとされている。

 このクーデターを題材にした映画「サンチャゴに雨が降る」(1975年、フランス・ブルガリア合作)は各国で上映され、ピノチェト独裁政権とそれを庇護する米国に対する強い怒りが世界に広がった。

 そのチリで、生まれたばかりの乳児が病院から連れ去られ、欧米で養子縁組されるという「人身売買」が組織的に繰り返されていた。チリではピノチェト独裁政権が誕生する以前の1960年代から連れ去りがあったとされるが、独裁政権になって本格化した。これまでの調べでは連れ去られた乳児は2万人を超えるといわれる。