大統領スキャンダルに埋もれてしまった少女の死

 本作の題材となったのは、実習生としてコールセンターに勤めていた女子高生ホン・スヨンさんが2017年1月に自死を遂げた事件だ。この事件と前後して、韓国ではインターン生をめぐる事件や事故が相次いだ。2021年にはヨットハーバーで潜水作業していた実習生のホン・ジョンウンさんが溺れ死ぬという痛ましい事故も起きている。実習生たちを安価な労働力として扱う企業側の論理と、危険な状況を知りながらも見て見ぬふりをしていた大人たちの無関心さが恐ろしい。チョン・ジュリ監督がZOOM取材に応えてくれた。

ジュリ「前作『私の少女』から『あしたの少女』の公開まで8年も経ってしまいました。脚本まで書き進めていた別の企画があったのですが、残念ながらそちらは製作には至らなかったんです。『あしたの少女』は2017年に起きた事件を題材にしていますが、私がこの事件のことを知ったのは、ずいぶん後になってからでした。映画製作を始めたのは2020年からだったので、かなりの短期間で撮り上げた作品です。すでに記者たちがこれらの事件に関する内情を記事にしていたので、私は関係者に直接取材することなく映画化することができたんです」

 実習生たちの問題は韓国のマスコミでは大々的に取り上げられることがなく、チョン・ジュリ監督も映画を企画するまでに時間が掛かってしまったそうだ。

ジュリ「気づくのが遅かったことを、私は恥ずかしく思います。当時の韓国はパク・クネ大統領に関するスキャンダルが連日報道されていて、私も含めてみんなそちらに関心が集まっていたんです。本来なら、私には縁のない大統領のスキャンダルよりも、もっと身近な社会問題に注目すべきでした。ようやく事件の概要を知ってまず驚いたのは、『高校生がなぜそんな職場で働いていたのか?』ということでした。自分も社会の一員なのに、若者たちが搾取されている現実に無関心だったことを悔やみました。そのことが原動力になって、いっきに映画化することができたんです」